第3話
事件があってから3日がたつ。中島は今回の事件の犯人と被害者の身元をあらっていた。犯人だった男の最期の言葉が気になるのだ。
そもそも、快楽殺人者でもないかぎり、何の恨みも無い人間を殺す動機が無い。それに犯人だった男は特殊犯罪対策課の人間が来たというのに簡単に正体を現した。
よほど自分の能力に自信があり、中島とニカの2人くらい簡単に殺せると判断しての犯行ということも考えられるが、誰かが操っていて使い捨ての駒として使い捨てたのではなかろうかと中島は踏んでいる。
確証は無いものの、犯人だった中年男性は自分の命を簡単に扱い過ぎている。死ぬかもしれない、捕まるかもしれないといった思慮やそれらに対する恐怖や自制心や慎重さが無い。中島には、それがどうにも引っ掛かる。
この3日間で分かったのは、今回の犯人と被害者に何の接点も無いこと。おまけに犯人は長い間ひきこもっており、日頃は高齢の両親以外の誰とも接触はしていない。
SNSやネット関係も調べはしたものの、犯人に友人や知人らしい人間は見当たらず、見つかったのはひきこもりの子供部屋おじさんとして、ひっそりと暮らしていた形跡だけだ。
人との接触がまったく無いのなら、犯人はいったいいつどこで誰に操られ始めたのか? 犯人が適合者になったのはいつ頃からなのか? それとも本当に犯人の場当たり的な単独犯なのか? 犯人をいくら調べても解決の糸口が見つからない。
「だいぶ苦戦しているようですね」
「あっ、どうも、お疲れさまです」
声を掛けられ、中島が慌てて席を立った。
「いいですよ、そのまま続けてください」
「あっ、はぁ…」
中島は目の前にいる上司がとても苦手だった。自分よりも年下だが階級は上。普段から穏やかな表情をしているが、同じ表情で厳しい処置も下す男。
「前回の適合者事件をまだ追ってるそうですね」
「はい、一応… いくつか気になることがありまして…」
「中島警部補の美点でもあり欠点は、意味を追い過ぎるところだと思っています。前回の事件だって全部たまたまかもしれませんよ」
「そうかもしれません。ですが、もし真犯人がいるとしたら、また犠牲者が出ることになります」
「まったく本当に厄介なものですね、適合者というのは。犯人を追おうにも、何の能力を持っているかが分からなければ無限の可能性が生まれてしまう。瞬間移動?
「適合者に対しては否定的な意見ばかりではありません。世界的にも積極的に適合者を雇用しようとしていますし、現に
「ニカちゃんのような事例はレアケースですよ。適合者はその能力ゆえに恐れられていますからね。ネットやSNSでは適合者に対する差別やデマで溢れかえっているじゃないですか。
それに今現在、世界各国で公表している自国が抱えている適合者の数だって日本以外は
「あの事件の犯人は本当に政府の発表したように死亡したんでしょうか?」
「どうでしょうね。あの事件はテロだという噂もありましたけど、それなら国会議事堂や政府の機能を麻痺させる機関をまず先に狙うはずですから、政府の言うように能力が暴発して、犯人も自らの爆発で死亡したというのは一番納得しやすいです」
「納得しやすいだけで、本当は違うかもしれない」
「政府がかくまっている。もしくはテロ集団が全国の適合者を集めて国家転覆を企んでるって話ですか? ありもしない事をもっともらしく喋るのが好きな連中はごろごろいますから…」
そこまで言うと松下は、はっと我に返ったようで「すみません、かなり脱線をしてしまいましたね。引き続き捜査をお願いします」と去っていった。
1人になった中島はさてどうしたものかと思案する。犯人からは何も出てきそうもない。それならばと逆に被害者側から真犯人をたどるのはどうかと探ってみることにした。
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