掌編小説・『神前結婚式』
夢美瑠瑠
掌編小説・『神前結婚式』
(これは、昨日の「神前結婚の日」にアメブロに投稿したものです。)
掌編小説・『神前結婚式』
ー谷崎潤一郎氏に捧ぐ。文豪へのささやかなオマージュとして…
伝統的なアニミズム的自然信仰の日本的な様式である「神道」に基づく神前結婚式は、明治33年の、のちの大正天皇の婚姻の儀に端を発する。東京大神宮、伊勢神宮の遥拝神宮であるかの場所において、儀式は厳かに執り行われた。それまでは結婚式は各家庭内において催されていた。結婚は神聖な誓いをなして、契約を取り結ぶ儀式である。だから神の聖なる領域に人間が赴いて、神と一体化して、いわば神との聖なる「まぐわい」を象徴的に演じる…偉大な神の介在で結婚という畢生の至純のプロセスは成就しうる。それは人間と神の関係も必然的で運命的なものだからだろう。
南米のアンデス山脈の、「緑の館」よろしい森の奥深くにインカ帝国の一部族があった。
インカ帝国は太陽信仰であり、そうして災厄や皇帝の崩御の際の人身御供の風習があったのだ。
人身御供にされるのは多くが若い処女であり、選ばれてごく幼若の頃からいけにえになるために生涯を送ることになっていた。
神に仕える巫女が、人身御供にされることもあった。
…太陽神インティを祀った、インカ帝国のユニークな風俗風習や美術の粋を凝らした巨大なアルケイックな寺院の伽藍で、今しも、うら若き美貌の巫女が、人身御供に捧げられようとしていた。
「巫女ハナンよ。お前はその美しい裸体を、神にささげるのだ」
醜悪で鉤鼻の神官が厳かにのたまった。
「太陽神インティは天空より参られる。ナスカの地上絵にはインティと思しき姿が描かれておる。のちの世では「宇宙飛行士の姿」とか言われている奴じゃ。コホン。天空都市マチュピチュもその太陽神への信仰と帰依の表れなのじゃ。古来よりインティはたびたび地上に降臨して人類に祝福を授けてきた。このインカ帝国は太平洋に沈んだムー大陸にあった巨大な古代文明の末裔たちが築いたものだ。その文明はすなわち天空から舞い降りた神々がもたらした闇に咲く華麗なる仇花だ。巫女ハナンよ。お前はその天空の民への供物として瑞々しい処女の肉体を捧げられるのである。」
16歳のハンナの華奢だが弾力性の満ち満ちている裸体は興奮のために紅潮し始めた。
唇は半開きになって、昂奮に喘いでいる。
催淫剤の入ったコカ酒のために全身はけだるく、微光を帯びる感じに発情を示していた。
神官が呪文を唱え始め、たいまつで鈍く黄色く浮かび上がっている祭壇に、「太陽神インティの化身」が、少しずつ姿を現し始めた!
それは、グロテスクで奇怪な、あえて類似物を探せば、神話の中の牧羊神、パンの神、あるいは邪神バフォメットといった、禍々しい姿の不吉な魔性の生き物だった。
黒光りしていて、まずこの上なく異質だった。
「クククク…」
生き物はこの世ならぬ声で笑い声を立てた。
「神は降臨した。ハンナよ、お前は神とまぐわうのじゃ。神と合一し、結婚して、神の子供を宿して、最高に幸福な巫女となるのじゃ」
ハンナは一糸まとわぬ裸体を無防備にさらしたままで、神のいけにえとなるということの、倒錯した不思議な喜びの感覚に浸っていた。
身も心も神にゆだねて、究極の巫女となることの快楽や愉悦は筆舌に尽くしがたいに違いなかった…
「クククク…💓」
まだ男を知らない純潔なハンナの真っ白で瑞々しい裸形の上に、異質すぎる漆黒の「神」が覆いかぶさった!異形の神は荒々しくハンナを犯し、蹂躙し、その吐息と汗と若い息吹を存分に貪った。…
…太陽神とその巫女との神聖なる儀式と結婚は成就して、ハンナは神の胤を身ごもった。
その「皇太子」が、インカの最後の皇帝であるマンコ・カパックとなることは、茫漠たる歴史の海の偶然の中の一つの気まぐれないたずらに過ぎなかった…
<了>
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