第2話 田舎の噂話
「おい、おいどうした? 彼女ずぶぬれで舞い込んで来たぞ」
遅れてヘロヘロで帰ってきた俺。
彼女と海に落ちたこと、ゴロタを背負いながら歩いてきたことをオーナーに説明する。
「はははは。そりゃ、災難だったな」
「笑い事じゃないですよ」
「ま、2人とも怪我がなくて良かったな」
「彼女はどこです? 」
「ああ、シャワー浴びてもらっているよ。それと琴子ちゃんに連絡したから服も持ってきてくれるだろう」
「そうですか。よかった」
「おまえもシャワーでも浴びてきたらいい」
「はい」
・・・・・・
・・
シャワーを浴びるとぶつけた腕に違和感を覚えた。
うまく頭まで腕が上がらない。
きっとまだ痺れているだけだろう。
・・
・・・・・・
「あれ? オーナーあの子の事、気が付かなかったんですか? 結構、知っている漁師さんもいますよ」
「いや、まったく気が付かなかった」
シャワールームから出ると琴子さんとオーナーが話をしていた。
琴子さんはこのダイビングセンターの正規スタッフで今は育休扱いで気が向いた時だけ出勤するという何ともアバウトで自由な休暇だ。
「何の話ですか? 」
「ああ、
「ったく。普通、災難を受けた人を笑いませんよ。『大丈夫? 』『ケガ無い? 』とか形だけでも言ったらどうなんですか? それよりあの子がどうしたんですか? 」
「ああ、あの子ね。毎年、この時期にあの岩に立っているのよ。だいたい3~4日間のくらいの間、晴れた日の午前中にね」
「毎年ですか? 」
「うん。4年くらい前からかな。最初は吉岡のおっちゃんが気が付いて、心配して漁船で近づいて声をかけたんだけど、返事もせずにプイって帰ったって。でも翌日もやっぱり岩の上に立っていてね。わたしは3年前に『
「はははは。そうなのか。俺は全然気が付かなかったな」
「オーナーは鈍感なんですよ」
「そ..そんなに人の噂って楽しいですか? 」
「あ.... 」
「だから田舎のひとは嫌! すぐに憶測で噂ばかりして」
全身にタオルを巻いた彼女が立っていた。
「ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったの」
「別にいいです。陰口は言われ慣れてますから.... 」
「あのね、私の古着だけどTシャツとスウェット持ってきたから、とりあえず着替えて」
琴子さんが服を持ってきたことを知ると、さっきの言葉を後悔したのか彼女はバツの悪そうな顔をしていた。
「 ..あの ....ありがと..ござい...... 」
その言葉を言い終えようとした時、重々しいタオルがズルズルと音を立てるように落ちていく。
「 .... キャー! 」
うずくまる彼女に琴子さんが素早くタオルを掛ける。
πππππππ
ππ
女子更衣室で琴子さんの古着を着て戻ると、彼女はドカリと音を立ててイスに座った。
「..最っ低!」
「ほんと最悪だわ。佑ちゃん。あそこで鼻血はないよ.... 」
その言葉に彼女の顔は再び真っ赤になった。
「いや、あの..見てないですよ。俺、タオルが胸から何の抵抗もなく落ちた時、とっさに目をそらしましたから.... 」
「 ほんと最っ低! 抵抗なくて悪かったわね! 」
彼女が再び呟く。
「佑ちゃん、そんな具体的に説明しちゃだめでしょ」
ここは天国か地獄か....オーナーは危険を感じて姿をくらませた。
「ところであなたここ数年あの場所で何やってるの? 」
琴子さんが核心を突く質問をすると、彼女はびっくりした顔をしていた。
「.... 」
「 .....」
「.... 」
「すごいリアクションよ。まるで天使の花園でこっそり花摘みをしているところを目撃されてしまった魔王のようなリアクションだわ」
「(琴子さん、的確過ぎる)」
「な、何で知ってるんですか? 」
「いや、もうみんな知ってるから。『今年もそろそろやって来るころだんねぇ』って漁師の吉岡のおっちゃんも言ってたよ」
「ひっ! 」
彼女はさらにショックを受けたようだ。
「佑ちゃん、この子、面白い子だんね」
「さぁ、面白いかどうかはわからないけど....(琴子さんが面白がってるだけじゃないの)」
「あれ? 佑ちゃん、その左腕だんだん大きく腫れてない? それってヤバくない? 」
そういえばジンジンしているかも....
「ひっ! 」
自分の腕がポッコリと腫れているのを見て思わず声を上げてしまった。
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