青いトンネルの向こうには~天に届く音色~松田佑斗編

こんぎつね

第1話 岩に立つ少女

ここは多くの観光客が訪れる小さな島『荻島おきしま


期待を胸に訪れたものの、海以外何も無い島に飽き飽きして帰る人、逆に思い出という宝物を抱えて帰る人、様々だ。


島がもうすぐ夏の準備を始めようとしていたあの日、俺はひとりの女の子の想い出と交差した。



「あとこれだけですね」

「ああ、祐斗ひろとのおかげで午前中に終わりそうだ」


俺は今日、大学の授業をさぼって叔父さんが経営する荻島ダイビングセンターの手伝いをしている。今日はダイビングエリアにガイドロープや目印となるブイ設置をしている。これらを設置することでダイバーたちは迷わず計画的にダイビングを行うことが出来るんだ。


青空のもと、青い海に潜って行う作業はとても有意義に感じた。


・・・・・・

・・


「ようし! 終わった」

「 ..思ったよりも大変なんだね」


「はは、まぁな。昼飯食べたら、好きに潜っていいぞ。新しい生物情報も頼むぞ、祐斗」

「ああ、まかせて! 」


エントリー口からは遠いダイビングエリアエンド上の水面。

再び潜降しようとした時....


「叔父さん、あの子あそこで何やってるのかな? 」

「 ..ああ ....あんな服装で....危ないな」


波打ち際のひときわ大きな岩の上にスカート姿の女の子が立っている。


整備されていないあの場所へ行くにはいくつもの大きな岩を渡っていかなければならない。

あんな場所に行くなんてよっぽどの釣り好きの人ぐらいなものだ。


・・・・・・

・・


「君、凄いな」

「え? 」


「ごめん、驚かせないようにと思ったんだけど」

「.... 」


振り向いたその子は高校生くらい。

ショートカットの髪にクラシカルなワンピースは なぜか少しアンバランスな感じがした。


「俺でもここまで来るのは大変なのによく日傘まで持って来たね」

「 ..何の用? 」


(まずったかな。ちょっと敵意を持たせたかも....)


「海から君が見えたもので。俺あそこにあるダイビングセンターの者だけど、叔父さ..オーナーがこれを君にって」

「ライフジャケット? 」


「この場所かなり危ないからって..それにこの辺は潮の流れも速いし」

「そうですか..でもいいです」


「 ..じゃ、ここに置いておくから」

「いらないから! もう放っておいて。邪魔しな..キャッ」


「危ない! 」


足を滑らした彼女を庇うように落下した。


水面をはじいた音、こもった泡の音、左腕が何かの重みに押された感じがした。


彼女を水面に引き上げると彼女の脇から腕を回し、水面に浮かぶライフジャケット手繰り寄せた。


「ほら、これにつかまって」

「ケホ ケホ.... 」


潮が満ちていて良かった。

そうじゃなければ、下の岩に頭を打ちつけていたかもしれない。


「さ、寒い.. 」

「うん。ちょっと我慢して、俺があそこまで引っ張るから」


そりゃそうだ。

水温はまだ16℃しかない。

ロングジョンを着ている俺はまだいいが、彼女は普通にずぶぬれだ。

体温は全身から奪われてしまう。


震える手でライフジャケットに捕まる彼女を曳いて、海から出られる場所にたどり着いた。


「手を貸そうか? 」

「いいです。ひとりで立てるから.. 」


かなり意地っ張りだ。


何気なく手を貸し何とか立たせるが彼女の靴が片方脱げてしまっている。


素足ではこのゴロタを移動することが出来ない。

コンクリートで整備された場所まで80mはある。


「俺が背負っていくから、しっかり捕まって」

「大丈夫。私、歩いていけるから」


「無理だよ。足を怪我するよ。いいから」


80mくらいなら....


かなり足場が悪い。

しかも打ち付けた左手にあまり力が入らない。

それが思ったよりもきつい。


でも、ここで降ろしたら、やっぱりかっこ悪いだろ!


・・・・・・

・・


「....だヒャぁ..」


着くなり変な声をだしてしまった。

かっこ悪っ!


「 ..大丈夫? 」

「な、なにが? 全然..大丈夫だよ。俺、鍛えてるから....」


「 ..ごめん ....でもあなたのせいだから」

「え?? あ、ああ....そ、それより..ずぶ濡れでしょ....センターにシャワーが..あるから....寄って....」


「 ..うん。わかった」


俺にかまわずスタスタと歩いて行く彼女。


お、俺は ..ちょっと....休ませて!


バタッ....



見上げた空はより一層青みを増しているようだった....

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