第7話 鎖帷子と黒スーツ

 両家顔合わせの席は、緊張した場となった。

 それは、両家の父親がガチガチに固まっていたからに他ならない。

「ほら、お父さんお母さん、こちらが前に紹介した――」

 娘が旦那になるであろう青年を紹介する。しかし、娘の隣に座る父親は、獲物を狙う虎の形相である。

「あ、どうも、お義父さま!」

 人のよさそうな青年が頭を下げる。

 その横で、彼の父親が顔をゆがめている。机の下では、誰にも見えないように猛スピードでタブレットを操作していた。どうしてだ、どうしてこうなった――。無論、その答えがネット上にあるはずもない。

 娘と青年の努力、そして両家の母親の尽力によって、何とか自己紹介が始まった。

 男どもも少しずつ冷静さを取り戻し、自分の子どもにとって一世一代の場面であると、「いつもどおり」の演出を仕掛けることにする。

 娘の横で獲物を狩る目をしていた男は、無理矢理笑顔を浮かべ、自分の名前を述べた。

「仕事は、子供服の営業をしております」 

「ぶふっ」

 正面で、青年側の父親が茶を吹き出す。

「ちょっとお父さん、何をしてるの」

 妻と息子にたしなめられ、男はハンカチを取り出す。

「すまん、ちょっと気管支に入って」

 茶と一緒に、額の汗を拭う。殺人マシーンが、子供服の営業? 冗談もたいがいにした方がいい。

 自己紹介は進み、青年側の父親の挨拶になった。先ほどは失礼しました、と慇懃に述べ、男は名を述べる。

「このようなめでたい場で何ですが、仕事の方は、葬儀屋をしております」

「ぶふっ」

 今度は、娘側の父親が吹き出す番だった。

「ちょっと、どうしたの?」

「いやすまん、思ったより熱くて」

 いつも黒スーツで「葬儀屋」の異名をもつ殺し屋が、実生活で葬儀屋をしていることになっている。あ、逆か。葬儀屋をしていることになっているから、いつも黒スーツなのか?

 このように、いくつかの小さなトラブルに見舞われたものの、顔合わせ自体はつつがなく終わった。

 こうして、二人の諜報員は親族となったのだった。

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