第6話 チンピラ

 チンピラはだらだらと車を走らせていた。左ハンドル、父親に買ってもらった海外の高級車だ。

 父親、母親、妹は、先頭のトラックに同乗している。二台目のトラックは、家財道具の運搬だ。そしてその後ろに、チンピラの車がついているわけだ。

 父親は、チンピラにも先頭のトラックへ乗るよう言った。しかし、二時間の道のりを煙草無しで過ごすのは我慢ならない。チンピラは自分だけ別の車で行くと押し切ったのだ。

 前を走るトラックが左折した。チンピラも紫煙を吐き出しながら、その後を追う。

いやに細い道へ入るんだな、と思った。

 左折した直後、おかしいなとは思った。まっすぐ進んだ道路に、先頭のトラックの背中が見えたからだ。つまり、先頭のトラックは直進したのにも関わらず、二台目のトラックは左折したのだ。

 しかし、最終的に別荘へ無事に到着できれば問題ない。もしかしたら、二台目のトラックの運ちゃんがもよおしたのかもしれない。だとしたら仕方あるまい。

 二台目のトラックがゆっくり速度を落とした。そして、停車する。

 道幅が狭いので、トラックはほとんど道をふさぐような状態になっている。

 なんだ、本格的にトイレピンチか?

 そんなことを思いながら、チンピラは様子を確認するため外に出た。

 トラックは停まったままだ。運転手が降りてくる気配もない。チンピラは煙草を取り出し、火を点けた。

 トラックの荷台がゆっくり開いた。中から、真っ黒なスーツ姿の男が降りてくる。

「お前、○○か」

 黒スーツの男は、チンピラの名前を口にした。

 チンピラはうなずくこともできない。父親が突然引っ越すと言い始めた理由を、おぼろげに理解し始めていた。

「○○か? 合っているならうなずけ。そうでないなら首を横に振れ」

 チンピラは首を横に振った。

「そ、そんなやつは知らねえ!」

 振り返り、来た道を逃げ出そうとする。

 しかし、チンピラの背後からは、別の男が迫っていた。

 迷彩柄のズボン。上半身には、鎖帷子。腰には固そうなワイヤーがぶら下がっている。

 見るからに、やばそうな人間だ。

「どうして逃げるんだ? あんたが無関係なら、逃げる必要などないはずだ」

 鎖帷子の男は、ワイヤーを指でもてあそびながら言った。

 チンピラは悲鳴を上げようとした。しかし、それを聞いた者は誰もいなかった。

 一瞬のうちに、ワイヤーが彼の首を締めあげていた。

 そのまま首元に、スタンガンが押し付けられる。

「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」

 チンピラは意識を失って崩れ落ちた。

 黒スーツの男が、スタンガンのスイッチを切ってから言った。

「あんたも来てたのか」

 鎖帷子の男が舌打ちした。

「こっちの台詞だ」

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