第3話 チンピラ
チンピラは、家の玄関を開けた。
六畳ほどもある玄関。正面には、よく分からない幾何学模様が描かれた絵の額が掛かっている。チンピラにはその価値がまったく分からなかったが、それでも数千万という。
さらに広いリビングに入る。
豪勢なソファに座って、彼の父親が新聞に目を通していた。
その隣で、妹がテレビをぼんやりと眺めている。
奥のキッチンから、母親がコーヒーを運んできた。
チンピラが家に帰って来たのは数日ぶりだった。そして家族たちは、彼が帰ってくるときは面倒ごとも一緒であることをよく知っていた。
「お父さん」
チンピラが言った。
「何だ」
父親は新聞から目を上げない。冷たい声で先を促した。
「また何かもめごとでも起こしたか」
「まあ、そういうこと。ね、お父様、今回もお願いします」
チンピラはおどけた調子で手を合わせる。
父親はため息をついた。
「で、相手は誰だ」
チンピラは、意中の相手だった女子中学生の名前を伝えた。父親は興味なさげに「そうか」とだけ言った。
チンピラは、ボコボコにした男子中学生の名も口にした。
それを聞いた途端、父親の顔色が一変した。
新聞を投げ捨て、立ち上がる。その勢いのまま、チンピラの頬を殴りつけた。
「なんてことをしてくれたんだっ」
チンピラには事態が呑み込めない。母親も、妹も、口を開けたまま固まっている。
「い、痛えよ、何すんだよ」
父親はチンピラの声を無視した。
「引っ越すぞ」
父親の額を大量の汗が流れ落ちている。
「明日にはここを出る。一旦別荘に避難して新居を探す。全員、最低限の着替えをまとめておけ。携帯は持つな」
有無を言わせぬ響きがあった。
「さもないと全員殺される」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。