第3話 マリーとベレンガリア
それから三十分ほど断続的に魔物に襲われた。ゴブリン、コボルト、ハーピー、オオガラス。肝心のゴーレムが現れたのは、さらに三十分後だった。
「はぁ、はぁ……やっとマリーさんのお手並み拝見ね……」
「ベレンちゃん……魔力を込め過ぎたんじゃない……? これじゃあゴーレムを仕留めても帰れないよ……疲れ過ぎて……」
「はぁ、はぁ……だらしないわね、男でしょ……」
「休んでおいてください。そしてよくご覧ください。」
雑魚の群れと言ってもまだ十代前半の彼らにとっては大変だったことだろう。少しぐらい休ませてあげるのもいいだろう。現れたのはストーンゴーレムが二体、マッドゴーレムが一体のみなのだから。私の敵ではない。
「さて、分かりましたか? ゴーレムを相手にする時は決して近付いてはなりません。必ず間合いの外から核となる魔石を狙ってください。体表に隠れて見えませんが、大抵は頭か胴体の中心辺りにあります。」
「さすがマリーだね。
「悔しいけど参考にならないわ。私がそんなの撃ったら三発ぐらいで魔力が切れてしまうわ……」
「己を知ることは大事かと。」
「それにマッドゴーレムなんか魔石をくり抜いたんだよね? マリーはすごいよ!」
「それも参考にならないわ。水球や水弾なら私でも撃てるけど、水の魔法を筒状にして、しかも高速回転させて撃ち出すなんてね。」
「研鑽されてください。」
ここで問題が発生するのだが、果たして彼らは気付くことができるだろうか。
「さあ、のんびりしてる暇はないわよ。山を降りるわ! 準備しなさい!」
「まだロクに休んでないよ。もう少しゆっくりしてもいいっしょ!?」
「バカねジェームス。マリーさんが使った魔法にどれだけ魔力が込められてたと思ってんのよ! さっさと逃げないと私達の手に負えない大物が来るわよ!」
なんと……ベレンガリア、様は気付いていたとは……せっかくだから少し苦労をしてもらおうと思ったが、この分なら心配はいらないか……
彼らは足を引きずりながらも山を下りる。その根性は見上げたものだ。特にベレンガリア様。リーダーらしく最後尾を警戒しながら歩いている。オディロン坊ちゃんは先頭だ。何て息の合った二人……やはり私は坊ちゃんの側にいない方が……
「全員走れ!」
ベレンガリア様の声に三人とも迷わず走り出した。そこまで彼女のことを信頼しているのだろう。
「マリーさん、全員って言ったのに……」
上から襲いかかってきたのはポイズンタランチュラ。全長三メイルはある毒蜘蛛だ。彼らの手に負えるレベルではない。音もなく襲いかかるこの魔物によく気付いたものだ。
そしてこんな恐ろしい毒蜘蛛に囚われながらもよく私を気遣う言葉を出せたものだ……
「合格です。オディロン坊ちゃんをお願いします。」
『
枯葉を握ったかのように蜘蛛の胴体が微塵に切れる。
「ベレンガリア様。あなたが坊ちゃんを想う気持ち、感服いたしました……どうか坊ちゃんをよろしくお願いします……」
「マリーさん、助かったわ。オディロンをよろしくって言われてもリーダーなら当たり前のことをしただけよ。」
え?
「あなたは坊ちゃんを愛しておいでなのでは?」
「全然。私が愛しているのは……内緒。」
「ならばなぜあそこまで私を挑発されたのですか? あんなにベタベタと。」
「うふふ、それも内緒。山を下りたら分かるかも?」
一体何を考えているのだ?
やや急ぎ足で坊ちゃん達の後を追う私とベレンガリア様。
来る時に馬車を降りた地点で合流すると、坊ちゃんが……
「マリー! 大丈夫だった!? 怪我はない!?」
「ちょっとオディロン! 私の心配もしなさいよ!」
「あぁ、ベレンちゃんお疲れ。リーダーは大変だよね。それよりマリー! 怪我は……なさそうだね。よかったよ……」
「ご心配をおかけしました。この山は皆様にはまだ早いようですね。」
「そうだね。でも何でベレンちゃんはゴーレムを狙おうとしたの? マリーに助っ人を頼んでまでさ?」
「アンタがマリーさんにプレゼントするには何がいいか悩んでるからでしょ!」
「え!? 僕のせい!?」
「そうよ! アンタが言ったのよ! マリーさんが包丁が切れなくなってきたって言ってたってね。砥石をプレゼントしたら喜んでくれるかなぁって!」
「た、確かに言ったけど……」
「この山のストーンゴーレムから作られる砥石は部位によって色んな仕上げができる優良品。それぐらい気付きなさい!」
「はは、面目ない。」
「坊ちゃん……」
「ところでマリーさん。私はオディロンにはメンバーとしての感情しかないわ。でも、もしオディロンが求めてきたら一晩相手をするぐらいは構わないわ。いい?」
「そ、そうおっしゃられましても……ご自由にとしか……」
「ふーん、いいんだ。どうオディロン? 今夜にでも私の部屋に来る?」
「からかわないでよ。行くわけないよ。」
ほっ……
いや、私はなぜ……安心を……私には旦那様がいるのに……
私は……
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