少しだけ早い放送をするラジオ

どくどく

――――――――――――――――――――

『ラジオは放送方法の関係上、テレビよりも少し早く放送される』


 テレビは受信と送信の関係上、ラジオと同時に放送しても一秒から二秒ほどのずれがあるという。例えばラジオとテレビで同じ試合の放送を聞いていた場合、ラジオの結果が少し遅れてテレビで放送されるとか。


「そんなシチュエーションはないんだけど」


 電車の中でラジオアプリを聞きながらそんなことを言う。家でテレビを見ることなんてもうない。リアルタイムで見ないといけないほどスポーツに興味はない。数年に一度の国際的な祭典でも、結果をネットで見るぐらい。映像も動画であとから確認するぐらいだ。


 今使ってるラジオアプリだって、昔を思い出して好きな放送を聞いている程度でしかない。音楽は動画を聞くし、気に入ったらダウンロードする。ラジオが生活の軸になることは今後ない。この放送が終わったら、おそらく聞かなくなるだろう。


<今日の占いです。十二位はみずがめ座。ラッキーカラーは赤。人とぶつかることに注意してください>


 なんだよみずがめ座12位か。ついてないね。なんて思って歩いてたら、いきなり角を曲がって走ってきた子供が足にぶつかった。


「おっと。気をつけろよ」


 お互いケガはなかったけど、気をつけろと注意して子供と別れる。


「のどか湧いたな。ジュースでも飲むか」


 近くの自動販売機に近づき、何を買おうか迷う。ラッキーカラーは赤。その占いを思い出し、赤色の缶を購入した。ピピピと電子音が鳴り、アタリの表示がでた。生まれて初めて自動販売機で当たりが出たよ。


「こういう事もあるんだな」


 なんてことを思いながらラジオアプリの放送を聞く。


<天気予報です。○○地方でゲリラ豪雨が発生しました。突然の雨に道行く人は慌てて雨宿りをしています>


 おいおい、○○地方ってこの辺りだよ。雨なんか全然降ってないじゃん。放送事故かよ……おや? 雲が急に集まって……まさか?


 ザザー!


 突如バケツをひっくり返したような雨が降ってくる。まさかとおもって近くの店に避難した俺は大丈夫だったが、道行く人は突然の大雨に慌ててる。


「おいおいこれってもしかして」


 ただの偶然。たまたま占いが当たって、その上で天気予報も当たった。でもこうなるともしかしてと思ってしまうのが人間だ。


「確か交通情報は……」


 スマホで検索して、交通情報をやっているラジオ局を調べてみる。


<●時××分頃、△△線で踏切事故がありました。現在復旧中のため、一部列車の運行に影響があるようです>


 スマホで調べたら、踏切事故なんてない。列車会社のホームページを見てもそんなことはなかった。


 だけど数分後にもう一回スマホで調べたら、ラジオの放送通りの場所で踏切事故が起きていた。時間もほぼ一致する。HPの更新が遅れた? その可能性もあるだろう。


 なんで事故情報やらニュースやらを矢次に調べてみた。そしてリソース確認とばかりに聞いた事件が本当に起きているかをスマホで確認。


 結果は全て同じだった。ラジオで聞いた時点ではその事件は起きておらず、数分後にその事件が起きている。ここまで偶然が重なるなら、こう思うしかない。


「このラジオアプリ、未来の事を放送しているのか?」


 半信半疑だが、そういう事なんだろう。ラジオはテレビより少し早く放送すると言われてるけど、まさか時間軸を飛び越えるとかあると思うか?


 しかしそうとしか思えないことが起きているのだ。でもありえない。しかしもしそうなら……。


 検証は大事だ。そんなわけで、俺は競馬場に足を向ける。移動中に競馬の結果が聞けるチャンネルを確認し、そこに繋げる。


<さあ始まりました、第六レース。出場馬は――>


 今テレビで放送しているのは、第五レース。しかもまだ結果は出ていない。俺は胸が高まるのを感じていた。もし、レースの結果が前もってわかるのなら? 落ち着け。財布の中身を確認し、ラジオの放送に耳を傾ける。


「単勝6番で」


 ラジオで聞いた一着の番号。それを買う。倍率的には来てもおかしくない確率。当たるかもしれない外れるかもしれない。財布のお札の数枚を使って買う。全額ださないのは、まだ信じきれてないからだ。未来を放送するラジオなんて……。


 しかしその疑念は、帰ってきた配当金を見て消え去った。そしてもう少しかけていればよかったと後悔する。その時すでに次のレース結果をラジオは放送していた。


 ここからは躊躇しなかった。配当金全てを次のレースにつぎ込み、お金はレースごとに増えていく。笑いが止まらないとはこのことだ。未来が分かるなんて、こんな安全なギャンブルはない。


「真面目に働くのが馬鹿らしくなってくるぜ」


 レースが終わるころには、軽く年収を超える額を稼ぎ出していた。こういうお金って税金とかどうなるんだっけ? そんなことを考える。とにかくこれからの人生バラ色確定だ。


「このお金を元に株やるのもいいかもしれないな」


 株とかFXとか全然知識ないけど、未来が分かるという時点で勝ち確だ。勝つ奴だけに賭ければいい。負けると分かっていれば逃げればいい。まったく、このラジオ様様だ。俺は何か面白いことはないかと、ラジオアプリを起動させる。


<本日未明、○○通りで通り魔事件がありました。男はギャンブルなどで多くの借金があり『金が欲しかった』『競馬で大勝ちした奴がうらやましかった』と供述しています>


 物騒なニュースだな。○○通りって確かここ――だよ、な?


<被害者と犯人との面識はなく、犯行は衝動的なものと思われます>


 競馬で大勝ちしたとか、通りの名前とか、まさに状況そのままだ。


「嘘だろ」


 イヤだ。でもラジオが告げた未来は絶対だ。確定しているんだ。避けられないことはもう何度も経験している。この通りから逃げれば、助かるかもしれない。


 俺はそう思い、急ぎ歩き出す。しかし背後から走ってくる足音が聞こえる。振り向くな、走れ、この通りを出ればいい。そうすれば命だけは助かるかもしれない。かもしれない。でも、未来は確定していて――


「お前が悪いんだ。俺の目の前で大勝ちしやがって。その金は、俺が買ってもらうはずだったんだ」


 背中に鋭い痛み。そしてそんな怨嗟の声。そして、


<被害者は病院に搬送されましたが、死亡が確認されました>


 ラジオアプリのそんな放送を聞きながら、俺の意識は闇に沈んでいった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少しだけ早い放送をするラジオ どくどく @dokudoku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ