第11話

 しかし、しばらくすると、だんだんと新兵衛に落ちる葉は減っていきました。

 新兵衛はどんどん生気をうばわれながらも、細く長く生き続けました。

 お千代は河童川に行きました。しかし、もみじの木の下は土か葉か分からないくらい茶色く、ものさみしくなっていました。

「新兵衛、おらはもうあんだとお別れでぎるよ。」

 んでも、新兵衛、青のもみじ見るっつったもんね。

 顔を上にあげました。

 まだもみじの木は葉をつけていませんでした。

 いがった。

 お千代は行商の仕事をしている最中の亀次郎のもとに行きました。

「ちよ。最近姿見せねぁーでなすているのがど思ってだよ。」

 亀次郎はお千代の姿を捉えると駆け寄ってきました。

「亀次郎はなんでも売ってるんだっちゃ。」

「だいでえのものはね。」

「もみじの葉売って。」

 何色かと聞かれると、お千代は何も言えませんでした。

 亀次郎はお千代に赤の葉をわたしました。

 その葉は変色することなく、きれいに色づいたままでした。

「これは売り物でねぁー。一緒さ河童川行ったどぎのもみじ。」

 いつの間にかかごに入っていたものをそのままにしていたのだと亀次郎は言いました。

「河童川のもみじはやっぱり特別だ。」

「葉落ぢでも新兵衛生ぎでるのは、縁起のいい葉さ触れだがらだね。」

 きっとこれがあれば新兵衛はもっと長生きする、という亀次郎の言葉には、どんな顔をすればよいか分かりませんでした。

 お千代はその葉を亀次郎から引き継ぎました。

 思っていた通り葉は乾ききっていたので、両手で優しく包み込んで運びました。

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