第8話
明くる日、新兵衛は床に伏せってきました。すわっていることでさえ難しいとのことでした。
お千代が土間に入って、きききききとこけしを鳴らせば、新兵衛は「お千代。」と言い、こちらを見て笑いました。
「お千代もこげすっこが好ぎが。どうだ、好ぎ同士こげすっこをつくらねぁがい。」
お千代は目を見開きました。
それから土間から上がり、たたみのへりをふんで新兵衛のそばによると、「今の新兵衛に、つくれるわけねえべや。」と言いながら新兵衛のほおをぎゅっとつねりました。
そしてそのまま、また土間を通って外に出ていきました。
亀次郎が言うには、新兵衛のもとにはこけしの絵付けをしてみたいという人が何人も訪れたようですが、新兵衛はだれにも筆をさわらせることはなかったそうです。
しかし、それくらい大切にしていたものをゆずってしまうとは、とうとう命の終わりを覚悟し始めたのかと思いました。
お千代は家の裏に行き、その場に座りこみました。それから、ふところから1枚のもみじを取り出しました。はやる気持ちであっという間に色づき、どの葉よりも早く散った落ち葉です。
手でぎゅっとにぎるとぱりっと音を立てて割れ、はらはらとまた落ちていきました。
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