第6話

「かめ坊、しっかりせえっ。」

 まさか、こんなことになっているとは思いもせず、なんて晴れた気持ちで河童川を目指してしまったのだろう。

 新兵衛は亀次郎のほおを何度かたたきました。

 すると、あっさり亀次郎は目を覚ましました。

 そして、すぐに新兵衛の姿をとらえると、「弱虫新兵衛がいる。」とつぶやきながら、にやけました。

 亀次郎の元気そうな姿に新兵衛はあっけらかんとしました。

「大事ねえが。」

とたずねましたが、寝ていただけだろうという思いもかすかに頭を右往左往していました。

 亀次郎は「不老不死になったがも。」とわけのわからないことを言い、あいかわらずそこに寝そべっています。

「おめ、なにかあって泣いでだんでねーの。」

 すると、ききききき、というかん高い笑い声が聞こえてきました。

 首をひねると、先ほどまでいた丘の上にお千代がいました。

「うそ、うそ。うそだっちゃ。」

 お千代はそう言うと、川におりようと、足をふみ出しました。

 新兵衛はあわてて体の向きをお千代に向けました。

 新兵衛はお千代が途中で立ち止まって着物の両すそを持ち上げることにさえ肝を冷やしましたが、お千代は無事に下りてこられました。

 亀次郎は「やあ、我が秘密の友よ。」と言いながらも、やはり体勢はかえませんでした。

「いったいどいなごどだ。」

 新兵衛の言葉に答えは返ってきませんでした。

 亀次郎はのんきに自分のとなりで寝転ぶように言ってきます。新兵衛は耳に入らないふりをしました。

 お千代もお千代で、もみじがきれいだどうだと言っています。

 もう、なにを言葉にすればよいか分かりません。

 ただただ、ここには河童などいなさそうだ、ということを笑って言ってやりたくなりました。

 と、川になにかが浮いていることに気がつきました。赤ん坊くらいの大きさです。

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