第5話
いつぶりでしょう。新兵衛はなん月か前に病気にかかってから体が思うように動かず、しばらく外に出ていませんでした。しかし、たどたどしい足取りながらも歩いてみれば案外前に進みました。 そして、やはりお千代は河童川の方に向かって歩いていきます。村のだれかに助けを求めればよいものを、きっと自分の代わりはいないのだろうと新兵衛は思いました。
やがて森に入り、きつねの親子がふたりの前を通りました。子ぎつねは小走りで親ぎつねを追いかけていきます。
お千代の小さな歩幅がちょうどよい、むしろ後ろを歩いているとは、自分はどれだけ小さく、幼いのだろう。
新兵衛は子ぎつねのような自分を思い出していつか大笑いしてしまうだろうと思い、歩幅を広げて懸命に歩きました。
川までは亀次郎の家まで行くよりもずっと近く、新兵衛もまた病人ということを忘れるくらいに、親ぎつねのような立ち姿か、それとも子ぎつねのような軽い足取りか、それをお千代に見せつけるように歩いていきました。
河童川に近づくにつれ、風が強くなっていきました。いつの間にか新兵衛はお千代の手を包みこむようににぎっていました。
川が見えてきました。見下ろしてみると、そこは噂に聞いていたよりずっときれいで、すがすがしい気持ちになれるような場所でした。
しかし、川からそのすぐ近くにあるもみじの木の方に目をやると、新兵衛は一瞬のうちに青ざめました。
「かめ坊っ。」
斜面をかけるように、いや、もう棒のようになってしまった足ですべるように、丘から川に下りていくと、もう使いものにならない足を投げ出して、うつぶせになりながら、木の下に横たわる亀次郎に近づきました。
色なき風が身をなでつけるなか、お情け程度に黄色や赤の落ち葉が亀次郎にかけられています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます