第4話

 次の日も、新兵衛が筆を置くとお千代が現れました。今日は荒々しいたんたんたんという音で入ってきて、土間に立ちました。

「えれえごどになった。」

 いつもお千代はこけしをさわりながら話すくらい、こけしを気に入っています。新兵衛に話しているようで、ちらちらと新兵衛のそばにいるこけしに目を向けているのはそのせいかもしれないと新兵衛は思いました。

「なじょした。」

 お千代は自分で自分の手を握りしめて、

「かめが泣いでるの。」

と言いました。

「かめ。」

 新兵衛は一瞬ぽかんとして、しかしそれから顔をほころばせてひとつ言ってやりました。

「かめ助げだら、浦島太郎みだいにずんつぁんになってすまうがもね。」

 新兵衛は自分の言葉にまた笑いました。

 いつの間にかお千代は新兵衛の目をじっと見つめていました。その顔はみるみるうちにくずれていきます。

 たたみのへりに落ちたなみだのしずくが行き場をなくしてふくれ上がります。

「なじょした。」

 新兵衛は思わずよろめきながら土間におりました。しずくは新兵衛にふまれて、たたみにしみこんでいきました。

「わるがった。」

「ちげえ、ちげえ。」

 お千代は顔がはがれてしまうのではないかと思うくらいそでで強くなみだをぬぐうと、

「かめは人間の子のごどだっちゃ。」

と言いました。

「まさか。亀次郎のごどが。」

 お千代はこくりとうなずきました。

「こっち。」

 新兵衛は手を引かれ、表の戸から外に出ました。

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