第3話 仲介の写真

「―今日さ、皆んなで撮る題材変えてみないか?」


 そう圭は提案する。


「え、なんのために?てかまず伊織お前、普段からこれと言った題材とか無しに、気分で撮ってるだろ」


「私も同感です…で、でも!伊織君の写真は見てて楽しいですけどね‼︎」


「鹿嶋さん…‼︎そんなこと言ってくれるのは君一人だけだよ…ッ‼︎」


「安心しろ鹿嶋、フォロー要らずともこいつは傷ついたりしない」


「確かにそうですね…わかりました」


「ちょっと酷すぎない!?」


 鹿嶋も転校してきてから既に1ヶ月ほど経っていたため、今みたいな軽い会話ができるくらいにはこの生活にだいぶ馴染んでいた。


「まあでも魅力的な提案だと思います!実は私、1回学校裏の河川敷撮ってみたかったんですよ」


「鹿嶋さんが言うなら決定だな。天井は、反論あるか?ないな?」


 おい勝手に話を進めるな。と言い返したかったが鹿嶋のワクワクした目を見てすぐに諦めがついた。











「…んで、天井はなぜ1枚も見せてくれないんだ?」


 鑑賞会が一向に進まない滞った空気の中、伊織は柾に問いかける。

 柾が頑なに写真を見せようとしないのに辛抱ならなかったのだろう。


「下手だったから。恥ずかしいんだよ」


「いいから見せてみろって〜」


 そう言って、伊織は、柾のカメラを強引に奪う。そうしてしばらくすると、再び口を開いた。


「…おいコラお前。」


「なんだ」


「お前、撮ってないだろ、1枚も」


「…」



……これはまずいことになった。








 部室についてから、まず柾達は題材を決める為にあみだくじを引いた。その結果、鹿嶋は『街の風景』、伊織は『自然』を題材にするという風に決まった。


 河川敷が撮りたいと言っていた鹿嶋は風景が撮れることに少し喜んでいたが、一方柾はそんなことを気にかける余裕などなかった。

 

 残る柾の線は、何度見てもやはり『生き物』と書かれる項目に行き着いている。


 一見どこに問題があるのか分からないだろうが、柾にとっては紛れもない大問題だった。



 (―俺は生き物が撮れない。)


 厳密に言えば、撮れ“ない”と言うよりも撮らせて“”が正しいだろう。


 写真部に入って今までの1年間、何度かそれを撮ろうとしたことはあった。

 しかしその都度、何故かシャッターを切る意欲が丸ごと抜き取られていく感じがした。


 結局今日も撮れず終いで、こうして伊織から説教を受ける羽目になった。


「ハッ‼︎もしかして天井、お前…」


「…なんだよ」


「ッッ‼︎そんなに生き物撮るのが下手なんだな…」


 自らの胸を、握った拳で抑えたまま伊織は苦しそうな顔をしてこちらを見る。


「ダメですよ伊織君‼︎そんな可哀想な子を見る目で眺めたら天井君傷ついちゃいます…」


「やめろ鹿嶋、お前のそれもすごい刺さるぞ」


 真面目なのか冗談なのか分からないから鹿嶋は余計タチが悪い。

 日に日に言動が伊織に近づいているのは良いのか悪いのか。

 今の環境に慣れてもらえた分には嬉しいのだが…


 しばらくして、鹿嶋が何かを思いついたように立ち上がる。


「2人共、明後日って空いてますか?」


「明後日だと、日曜日だな。俺は特に予定ないぞ。伊織は?」


「こっちなんてすっからかん。もぬけの殻よ」


「‼︎では、その殻の中、私との予定で埋めていただけませんか?」


「おいそこ!使い方おかしい事、ツッコめよ!いや、別にいいんだけど‼︎」


「どしたよ天井、そんなムキになって」


 もうダメだ。どうもこの2人と会話してるとペースが狂う。


「それで本題なんですけど、日曜、3人で一緒に写真撮って回りませんか?」


 写真を撮るだけなら部活で毎日してるよな、と柾と圭は首を傾げる。


「えっとですね、つまり、天井君を助けよう大作戦‼︎てことです」


「え、なんで?どゆこと?」


「私生き物の写真だけは撮るの得意なんですよ、だからコツとか教えれるかな〜って」


 どうやらさっきの伊織の発言を真に受けたらしい。


「その代わり交換条件です。2人には今後私に風景の綺麗な写し方とか、技術面のことみっちり教えてもらいます‼︎」


「よしその話のった、是非お供させていただきます。ね?天井さんや」


 聞いた感じ特にこれといった利点がないであろう伊織が、意外にも食い気味な姿勢を見せた。

 そのにやけ顔から察するに、『学校で話題の美少女と街を歩ける〜やった〜』みたいなことを考えているのだろう。


 まあそろそろこの苦手を克服しなくちゃなと考えていた矢先なので、柾もその誘いを受けることにした。




「ではまず、明日のうちにどこら辺を回るかだけ話し合いませんか?」


 そう言いながら鹿嶋はスマホを取り出し、チャットアプリのQRコードを画面に映す。

 

 柾と圭もスマホを取り出しそれを読み取ると、鹿嶋とそのお婆ちゃんらしき人とのツーショットをアイコンにした『時雨』と言う名前のアカウントが表示された。


 流れに身を任せ、友達登録ボタンを押す。

 

 すると直ぐに『時雨』から可愛らしいイラスト付きのスタンプが送られてきた。


 ちなみに隣では、伊織が幸せそうにニヤニヤしている。



「じゃあ夜また連絡するので、反応お願いしますね」


 鹿嶋はそう言うと、柾達とその後ろで話していた先輩達にお辞儀をし、スタスタと帰って行った。


 それから3分も経たないうちに完全下校のチャイムが鳴ったため、残る柾達もその後に続くのであった。

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