第99話 廊下
『空に三つ廊下』
初めて聞いた言葉。不安定な天候を、お洒落に現した言葉。『降ろうか、照ろうか、曇ろうか』の三つの『ろうか』が『廊下』に掛かる言葉。『密猟か?』に聞こえ、何を意味するのか、初めて聞いたときには理解ができなかった南山之寿。
『殿中でござる!』
本日の対戦場所は廊下。小学生の頃、ワックスが塗りたての廊下を滑って遊ぶ南山之寿。甦るのは、服に穴を空けて怒られた記憶。
廊下と言えば、松の廊下。パジャマ姿の若。小学生になる頃、大きめサイズに変更。戦隊モノパジャマからの卒業。まだ裾が長いのか、ずり下がり足が隠れる構図。そんな状態で廊下を走る若。予想通り、転倒。その怒りは南山之寿に。若、ご乱心。
『若! 殿中でござる!』
と言ってみても伝わらない、世代間ギャップ。ではなく、忠臣蔵なんて知らない若。泣きながら、腕を回して攻撃してくる
小学生になった若。流石に廊下で転ぶことは無くなったが、変わりに残すのは足跡。正月の書初め。会心の作品が完成したと、見せにくる若。力強い文字に、新年の勢いを感じる南山之寿。ふと見る廊下。黒い足跡。垂らした墨汁でも踏んだのか、部屋からの軌跡が浮かぶ。
大型連休中に、ワックス処理がされる会社の廊下。たまたま出勤する南山之寿。まさかのバッティング。乾燥終了の予定時刻を確認し、休憩時間を調整。
『この道を行けばどうなるものか。 危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。 踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。 迷わず行けよ、行けばわかるさ』
アントニオ猪木に背中を押され、廊下を踏み出す南山之寿。
――南山之寿の一足が廊下に刻まれた。
まだ、乾ききっていなかった廊下。業者の方の、哀れみの視線。この後、暫らく残る足跡。迷わず行くのは、南山之寿には時期尚早。行った結果、分かる悲しい現実。
『南山之寿の三つ廊下』
少し黙ろうか
考えて喋ろうか
オチを丁寧に練ろうか
――こんなところで、いいだろうか。
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