第98話 イメージ

『人間が想像できることは、人間が必ず実現できる』


 19世紀のSF作家、ジュール・ヴェルヌが語ったとされる言葉。星新一のSFの世界も然り。ネコ型ロボットの便利グッズも然り。少しずつ、目の前に現れてくる時代。想像力は、創造力に繋がると感じる南山之寿。


 言葉からのイメージ。例えば、名前。『武田』という苗字からイメージする有名人。誰もが真似をしたであろう、名物教師。風林火山でお馴染みの戦国武将。サッカー選手、格闘家、俳優、などなど人それぞれ。『マイケル』という名前からイメージする有名人。バスケットボールの神様、世界的な歌手、デロリアン、UFO仮面ヤキソバン。どちらかというと、隣の席に座っていた留学生マイケル。彼の方が、南山之寿の中のマイケル代表。


 今日は、対戦前におけるイメージの必要性。イメージをしないで望むと、訪れるのは悲劇。イメージしたとて、涙を流すこと無きにしもあらず。


 服を購入する南山之寿。カラー、デザインともド真ん中の好み。丁度良いサイズ感。伊達な漢に一歩近づくはず。いざ帰宅して、所持するアイテムと合わせる南山之寿。鏡を見て感じる違和感。イメージと何かが微妙に違う。単品は最良であっても、複合すると悪手気味。傍から見れば悪趣味。


 映画の宣伝。タイトルに煽り文句。こここら、勝手にストーリーをイメージ。そして、実際に足を運び映画を見る南山之寿。結果、全く違うストーリー展開に驚愕。南山之寿ごときに、展開が読まれる映画はB級以下、というのは言い過ぎかもしれない。

 

 高校時代の南山之寿。美容院に行き、お洒落な髪型を楽しむ年頃。スタイリストが見せてくれた、ヘアスタイルのサンプル。気に入ったものを選択。期待して望むが、終了した時に愕然。髪質、毛量、顔の形。一致しないと、ここまで違う出来栄え。


 時は経ち、若の髪を切ることになる南山之寿。『お父さんと同じ、坊主にしたい!』という、幼稚園の頃の若。坊主なら、お手の物。マイバリカンで完成する、きれいな坊主頭の若。鏡を見る若。


 ――うっすら、涙を浮かべていた若。イメージとの乖離が激しいとき、人は静かに涙を流す。


 その後、二度と坊主にしたいと口にすることは無かった。

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る