第78話 耳鼻科

『君子危うきに近寄らず』


 危険に自ら飛び込むことはしない南山之寿。選ぶのは、安心安全の確かな道。不機嫌な妻には、近づかない。


『虎穴に入らずんば虎子を得ず』


 いくら機嫌が悪く、危険と隣合わせの状況でも飛び込まねばならない時もある。覚悟を決めて挑むが、返り討ちにあうこともしばしば。急な飲み会の誘い。機嫌の悪い妻へ、参加承認を申請する南山之寿。


 ――却下


 無視して強行突破。しばらく続く兵糧攻め。南山之寿の夕飯だけ、白米と漬物。虎穴に入ったら虎にやられる。何も得られない可能性も、そこには存在。

 

 今日の対戦相手は、耳鼻科。若の中耳炎、定期的な診察。誰が連れて行くかで一悶着。機嫌を伺うため、若を連れて行く南山之寿。幼稚園の時の若は、兎に角、病院が嫌い。連れて行くだけで苦労する。


 泣き叫ぶ若。抱えて病院に向かう南山之寿。傍から見ると、人さらい。何とか病院に到着。診察室でも泣き叫ぶ若。若を抱えて座る南山之寿。


「ちょっと耳を見るよ〜。痛くないからね〜」


 優しく声掛けする先生。器具を耳に入れた瞬間に始まる、若の抵抗。足をバタつかせて暴れ出す。最悪な展開。バタつかせていた足が、先生の急所に会心の一撃クリティカルヒット。一瞬、うめき声が聞こえたが、聞こえないフリをする南山之寿。


 経過観察の為、翌週も診察に行くことに。翌週も南山之寿が同伴。相変わらず泣いている若。診察室で激しく抵抗。しかし、その日の先生は構えが違う。腰を引いたスタイル。


江頭2:50スタイル君子危うきに近寄らず


 若の抵抗を予見した先生。新たな特技スキルを修得。急所を守る鉄壁の構え。笑いこらえるのに必死な南山之寿。診察内容は何一つ頭に入らなかった。



 


 

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