第74話 立ち位置

『垣根は相手がつくっているのではなく、自分がつくっている』

               ――アリストテレス


 こんな言葉を聞かされると、人間関係について、考えを改めなくてはと影響を受ける南山之寿。ただ、翌日には忘却の彼方。超えられない、日付変更線の垣根。


『勝てば官軍負ければ賊軍』


 戦いに勝った方が正義となり、負けた方が不義となる。道理はどうあれ、強い者が正義者となるのだから不条理。小説でも見かけるが、『正義』というのも不安定な言葉。立場が違えば、そこに産まれるそれぞれの『正義』。


 今日の対戦ポイントは、立ち位置。間合いを大切にするのが格闘技の基本。相手が間合いに入った瞬間、技を繰り出す南山之寿。返り討ちにあうこともしばしば。


 立ち位置を間違えると、痛い目に遭う。叱られている姫。鬼の形相の妻。どちらの味方か詰め寄られる南山之寿。立ち位置が見極めきれず、叱責を受ける南山之寿。


 忘年会シーズン。学生時代の仲間との集い。何を食べるかで揺れ動く時間。集合してから店を決める、毎年恒例の流れ。人任せにするのが、南山之寿の立ち位置。辿り着いた店が、激辛料理も取扱う店。酔えば勢い任せ、ノリ任せ。人任せにしたツケが回り、激辛料理を食し悲鳴をあげる南山之寿。立ち位置を見誤ってはならない。


 バス停に並ぶ南山之寿。出張で訪れる初めての土地。改竄された、下調べの記憶。南山之寿か並んだ列、見当違いの方向に進む乗り込んだバス。直ぐに降り、タクシーに乗り換え。立ち位置を間違えると、手痛い出費が産まれる。


 とある休日、向かうは銀行。未記帳の行が多々ある通帳を片手に、ATMに並ぶ南山之寿。2台のATM。1台は故障なのか、使えない。待つこと数分。記帳と送金などの雑務をこなす南山之寿。思いの他、時間がかかり焦る南山之寿。後ろを振り向くと、いつの間にか数人並んでいた。


『行列は相手がつくっているのではなく、南山之寿がつくっている』


 他の方がイライラしない様に、南山之寿はスピードをあげて用事を済ませ、静かに立ち去った。

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