第67話 耳

『やったことは例え失敗しても、20年後には笑い話にできる。 しかし、やらなかったことは、20年後には後悔するだけだ』

             ――マーク・トウェイン


 この言葉を耳にしたとき、共感を覚えた南山之寿。失敗や逃げ出したいような苦しいこと。これらの方がどう転んでも、その後の話題になる。やらなかったことは、後悔もあるが記憶にも残らない南山之寿。


 部活仲間と顔を合わせると、弾むのは苦しい想い出。楽しい話は皆無。竹刀でバシバシ叩かれたとか、腕立て伏せが終わらず何百回もやらされたとか。全てが笑い話。今の時代とは合致しないのは重々承知。


 今日の対戦相手のウィークポイントは耳。マスク生活で耳がもげそうな南山之寿。寝ていると、姫に耳を思い切り引っ張られもげそうになる南山之寿。これもいつか笑い話に昇華する。


 まだ若が小学生になる前のこと。


 夕方のニュースで流れる、詰め放題特集。ビニールに必死に商品を詰める客。要不要は別にして、挑戦してみたいと感じてしまう南山之寿。若もテレビを見ながらはしゃいでいた。


「やりたいっ!!」


 楽しそうに見えるのだろう。イベントがあれば参加させてあげたいと思う南山之寿。祭りイベントでやっていたお菓子の詰め放題。若と参戦。力一杯、袋にお菓子をねじ込む若。粉砕される、うま〇棒やクッキー。帰宅後、ご満悦の若。お裾分けに、ツマミになりそうな菓子をもらう南山之寿。


 別の日の若。


 耳が聞こえないと相談してくる若。中耳炎かと思い、耳を確認する南山之寿。耳を見て驚く南山之寿。


 ――耳の穴が塞がっている。あるはずの無い、『BB弾』がそこにあった。公園で拾い、耳に入れた若。問い詰めて発覚する真実。


 翌日、耳鼻科へ。耳から無事に摘出されるBB弾。さらに、その奥から鉛筆の芯。


『鉛筆の芯??』


 思わず口にしていた南山之寿。若は、鉛筆で耳をかいたらしい。途中で折れたのだろう。鼓膜が無事なのが幸い。


 若の胸に詰まっているのは、夢と希望。

 耳に詰まっていたのは、玉と黒鉛。


 20年後の笑い話になることを願う。

                 ――南山之寿


 


 

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