第58話 クリスマス

 下足げそを取り外し、腹ワタを取り除いたイカの胴身に、研いだ米を詰め込む。醤油ベースの出し汁で炊き上げた烏賊飯。もち米とうるち米を混ぜており、米のモチモチ感と烏賊の歯ごたえが楽しめる郷土料理。


 ゲソをくわえて、流れる時間を堪能する年末年始。この時期のゲソにアタリメは外せない。


 先日訪れた、とある食堂。烏賊飯とメニュー札がぶら下がっていた。南山之寿は釣られることなく、安定の生姜焼き定食。となりの同僚が烏賊飯を頼んでいた。


 届けられた烏賊飯。丼に米。皿に丸焼きの烏賊。失礼を承知ながら、二度見する南山之寿。烏賊飯は烏賊飯だが、何かが違う。こんなこともあるのかと、静かに食べた昼食。


 本日の対戦相手は、クリスマス。この時期の南山之寿は、サンタクロースに化けなればならない。秘密を知られてはならない南山之寿。アマゾンの履歴でうっかりバレる南山之寿。アマゾンはサンタクロースの養成所ということで、事なきを得る。


 クリスマスといえば、チキン。チキン南山のランドリーチキンは、もうコリゴリ。


 三年前のクリスマス、七面鳥を見かけた。何を血迷ったか、購入する南山之寿。映画で見るような、七面鳥祭りをやってみようと画策。


 Google先生からレシピを教わる南山之寿。家族に作成を依頼。監督に徹する南山之寿。口も、手も出さない。下手に失敗でもしたら、こちらが丸焼きにされてしまう。


 完成した七面鳥。ナイフとフォークで切り裂くと、米ともち米が出てくる。千切っては食らう南山之寿。食感も味も好きな部類。堪能する南山之寿。シャンパンを開けようとして、コルクで眉間を撃ち抜く南山之寿。酔っぱらっているときに、やってしまうシャンパンあるある。


 中々減らない、七面鳥。食べれども食べれども、形が変わらない。テーブルにはケーキ。若と姫とでも呼ぼうか。二人の南山之寿の子供。七面鳥には見向きもしない。変化球にとケーキを食す南山之寿。生クリームの逆襲に合う。


 七面鳥の油脂。胃もたれが半端なく、途中リタイア。翌日も、昼食と夕飯に七面鳥が現れた。クリスマスは、小さめの鶏肉で十分。


 烏賊飯を見ていて、七面鳥を思い出す南山之寿。米ではなく、ほろ苦い想い出が詰まっていた。


 

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