第50話 定食

『お祈りは短く、ソーセージは長く』

    

 こんなことわざが、ドイツにはあるらしい。食事を楽しむという心意気。そう感じる南山之寿。 ちなみに、『南山之寿手抜き飯大全』に存在するソーセージ丼。白飯に焼いたソーセージを乗せるだけ。どうでもいい話。


 ソーセージ丼を東の横綱と例えるならば、西の横綱はわさび丼。白飯にわさびを乗せるだけ。カツオ節と醤油はお好みで。疲れ果てた金曜日の夕飯にはちょうど良い。土日でしっかり栄養を補えば、問題は無い。そう信じて疑わない南山之寿。


 今日は定食対決。定食屋の世界も弱肉強食。一時でも気を抜けば、淘汰される時代。『□肉□食、の□を埋めよ』という国語の問題に、『焼肉定食』とボケる人が何割いるのか。ちょっと知りたい南山之寿。


 自分自身で作る料理の味に感じる限界。店の味付には敵わない。プロの技に平伏す南山之寿。時折食べたくなる定食屋の味。


 フラリと入る定食屋。少し早めの昼飯。意外と混み合う店内。着席して眺めるメニュー表。あれも食べたい、これも食べたい。欲望に駆られるが、胃袋は一つ。決断を迫られる南山之寿。生姜焼き定食に、牡蠣フライを小鉢で追加。欲望に少しだけ従う南山之寿。


 定食屋の味噌汁は、どこの店も旨い。南山之寿が作る味噌湯とは別次元。いや、同じ土俵にすらのれていない。定食を堪能し、お茶で締める南山之寿。耳に入る、隣の席の食レポ。


「このお味噌汁、お出汁がおいしいね」

「お! よくわかるじゃないか!」


 違いの分かるお兄ちゃん。負けじと、弟ちゃんが食レポ返し。褒められたい一心。南山之寿も分かる心境。


「このお味噌汁、動物の匂いがするね!」

「えっ? 何を言っているの?」


 絶句するお母さん。むせるお父さん。


「あ、違った……。動物のエサの匂い?」


 再び絶句するお母さん。居たたまれなくなる南山之寿。伝票を手に取り、会計に進む。この後、どうなったのか知る由もない南山之寿。


 推測するに、味噌汁の具はキャベツ。動物園の餌やり体験と味覚が直結したのではないか。謎は解けたと言わんばかりのドヤ顔をする南山之寿。真偽も分からぬというのに。


 長めに祈る南山之寿。あの少年が、怒られたりしないようにと。


 


 


 

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