第49話 釣り
『一日幸福でいたかったら、床屋に行きなさい。
一週間幸福でいたかったら、結婚しなさい。
一ヶ月幸福でいたかったら、良い馬を買いなさい。
一年幸福でいたかったら、新しい家を建てなさい。
一生幸福でいたかったら、釣りを覚えなさい。』
釣りに誘われた南山之寿。釣りに関する情報を検索してヒットした中国の諺。流石に鵜呑みにできない。そもそも、床屋と無縁。出だしから、雲行きが怪しい。
南山之寿はカナヅチ。水に沈む生物。少年時代に通ったスイミングスクールは、何だったのか。カナヅチ所以、水に近寄らない。なので釣りとは、無縁。
今日の対決方法は、釣り。氷上の闘い。そう、ワカサギ釣り。凍った湖なら歩けるはずと、初めて釣りを体験する南山之寿。
形から入るのが南山之寿。取り急ぎ、防寒グッズと竿を購入。あとの必要な道具は借りれば良い。あとは、釣り人としての心構え。『釣り+名言』で検索すれば、何となく出てくる言葉達。心にインストールする南山之寿。
『俺に釣れない魚はいない!』
『魚は友達!』
数分後に口から溢れる、でまかせの言葉達。一端の釣り人気分の南山之寿。ワカサギ釣りを舐めていたあの冬。
完全に湖が凍る。そんな真冬にアウトドアなんかするもんじゃない。部屋で温々と過ごすべき。目の前に広がる光景に後悔。
それでも楽しもうとする南山之寿。別に、入場料を取られたからではない。もう一度言わせて欲しい。入場料は関係ない……と。
ジャンプしても割れない氷。着地時に滑って転ぶ南山之寿。割れたのは南山之寿のお尻。こんな話をすれば、またも滑る南山之寿。滑るーぷ。誰か止めて欲しい。
螺旋状のドリルで氷の壁に穴をあける南山之寿。折りたたみチェアに座り、釣り糸を垂らす。後は、ワカサギがかかるのを待つばかり。十分経っても何も釣れない。周りは釣れている。ワカサギに避けられる南山之寿。やはり、素人には難しいのか。
周りの釣り人は、テントを用意し風をしのぐ。南山之寿達は、気合で風をしのぐ。鼻が痛い。頬が痛い。足先の感覚が薄れる。冬将軍の攻撃で、危うく全滅の危機にさらされるパーティー。周囲の釣り人と、南山之寿一行のレベル差は倍以上。釣ったワカサギを食べながら楽しむ一行もいた。
手足のしびれに顔の麻痺を乗り越え、帰路の途中に立ち寄る温泉。身も心も生き返る。
『釣った魚は全て喰らえ!』
南山之寿の釣果は、十数匹。ほかの面々の釣果を見て、驚愕する南山之寿。これを喰らうのは、しんどいと思う数量。
素揚げ・天ぷら・唐揚げの、揚げ物地獄。一切他に食材が無い。ワカサギ一択。初めこそ美味しかったが、後半は胃もたれ。天ぷらになろうが唐揚げになろうが、ワカサギはワカサギ。黙々と食べる南山之寿。部屋には油のパチパチとはぜる音がこだましていた。
数年分のワカサギを南山之寿は胃袋に収めた。
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