第33話 油脂
常温で固体の脂肪と、常温で液体の油をあわせて、油脂と言う。 人はエネルギー源として、食品から油脂を摂取する。脂溶性ビタミンなどの栄養成分を含む食品と一緒に調理し摂取することで、これらの栄養成分を体内に吸収されやすくする。農林水産省のHPが南山之寿に教えてくれた。
南山之寿は、いったい何が言いたいのか。油脂は旨いという、ただそれだけのこと。美味しいものは脂肪と糖でできていると、煽る宣伝もある。
『NO 油脂 NO LIFE』
ノンオイル何て邪道。例え、胃もたれしようとも。例え、修羅の道を歩むことになろうとも。油脂無くしては、南山之寿は食事を楽しめない。
今日は、油脂レスリング。年末辺りに芸人達が繰り広げる様な、オイルデスマッチ。泥仕合にならないよう、気を付けるつもりだ。いや、既に泥仕合感が溢れている。
火に油を注ぐ。そんな馬鹿なことはしない。熱した油に水を垂らし、痛い目にあった南山之寿。これは以前、お伝えした話。
この油脂というものは、南山之寿の食欲には火を着ける。食欲の秋。読書よりも油脂を選ぶ、南山之寿。
背脂チャッチャ系の、ギットギトならーめん。
脂の乗った旬の鮨。
口の中で溶ける霜降り肉。
飲む為に産まれた様な、サラダドレッシング。
野菜にかける、ごま油と塩。
茹でたパスタにかける、オリーブオイル。
――オリーブオイル。別の場所でも語った苦い思い出。
とあるイタリアンバルで、アヒージョをツマミにする南山之寿。油の海に浸かる野菜や魚も旨いが、油自体も旨い。追加で頼むフランスパンも最高だった。
フランスパンをアヒージョの海にダイブさせ、ひたすら食べる南山之寿。パン好きな南山之寿が止まるわけがない。気がつけば、アヒージョの皿が干上がっていた。
その日の深夜。腹痛に襲われ、トイレに立て籠もり、なかなか寝付けない南山之寿。オリーブオイルは、腸をやたら刺激する。
とある情報を拾う南山之寿。オリーブオイルで顔や頭皮を洗うと、汚れが取れると。早速試す南山之寿。汚れが落ちる気がしない。余計に汚れている気がする。ギットギトのチャッチャッ系南山之寿が出来上がる。
それはそうだ。オリーブオイルを切らしていた南山之寿。同じ油脂だからと、サラダ油を代用したのだから。何度も洗髪と洗顔を繰り返した鏡の先で、南山之寿の瞳は赤かった。泪ではなく、洗顔フォームが眼を痛めつけていたはずだ……。
油脂は旨いが、食べ過ぎ、使い過ぎは良くない。人間ドックの結果に慄く南山之寿。年々増してくる胃もたれの辛さに参る南山之寿。冒頭の豪語は何だったのか。逃げ腰の南山之寿。チキン南山。昨日の夕飯は、チキン南蛮。野蛮な南山之寿には、お似合いだ。
選択肢をこっそり増やす南山之寿。さっぱりした塩らーめん。時折差し込む、茹で海老や貝類。脂身の少ない赤身肉。サラダはそのまま素の味か、ノンオイルドレッシング。
南山之寿が『油脂』という言葉をそっと床に置いて、静かに立ち去る日は近いのかもしれない。
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