第22話 風

『〜風〜


    私を優しく包み込み

    私が零す涙を拭う


    私の背中をそっと押し

    私の想いをそっと運ぶ


                     寿』


 国語の授業だったか、こんな詩を作る時間があった。詩的センスが壊滅的な南山之寿。とりあえず詩の最後に『寿』と書き、それっぽく体裁を整えていた。


 吟遊詩人に転職ジョブチェンジしたわけではない。南山之寿はどちらかと言えば、武道家。吟遊詩人になろうものなら、ギターで敵を殴るか、弦で敵を吊るしあげるか。後者はどちらかと言えば、必殺仕事人。


 考えようによっては、ここに新たな職業が誕生したかもしれない。吟遊武道家、もしくは武道詩人。得意武器は仕込リコーダーなんぞ如何だろう。鍛えた肺活量を活かし、中距離からリコーダーを活用した吹き矢攻撃。リコーダーを分解すると、あっという間に三節棍。近距離でリコーダーを振り回す。打撃による物理的破壊に、唾飛沫による精神的破壊。


 ここに異世界転生を組込めば、あっという間にアニメ化間違いなしの作品が……できるわけないだろっ!と言うわけで、ここまでの悪ふざけに、毎度のことではあるが、お付き合い頂き感謝する。


 今日の必殺技は、風。ロウソクの火を突きの風圧で消せるか試すべく、正拳突きの稽古をしていた時。うっかりロウソクを倒してしまった南山之寿。驚きのあまり、危うく命の灯火が消えるところだったのは、またどうでもいい話。

 

『風が吹けば桶屋が儲かる』


 三段論法だったか。『風が吹く』と『桶屋が儲かる』の間には、多くの事象が詰まっている。一度聞いたことがあるが、覚えてはいない。覚える必要はない。Google先生が南山之寿の後に付いている。


 公園の芝生に転がり読書をする南山之寿。さながら映画のワンシーンのように。風が夏の終わりを告げる。秋の薫りが南山之寿を包み込む爽やかな休日。


 秋の薫りを堪能した南山之寿。帰宅するとくしゃみと目の痒みが止まらない。ブタクサの季節。花粉対策に動き出す南山之寿。快適な環境を作り出してくれる優しい風。空気清浄機バディ無しでは、やっていけない。


 空気清浄機に近づくと、風の勢いが強くなる。南山之寿に付いた花粉を、必死に除去しようとする姿。こんな空気清浄機が愛おしい。気になるのは、『におい』のランプがついていること……。

 

『風が吹くと南山之寿が泣く』


 ――南山之寿の心は、静かに敗れた。

 


 

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