第20話 礼儀
『私たちがみんなで、小さい礼儀作法に気をつけたなら、この人生はもっと暮らしやすくなる』
――チャールズ・チャップリン
喜劇王が残した言葉の一節。礼儀、相手への思いやりがあれば、互いに嫌な気持ちにならずに済むのかもしれない。
『礼の吾人に要求するところは、泣く者と共に泣き、喜ぶ者と共に喜ぶことである』
――新渡戸稲造『武士道』
相手の立場になることが礼儀には欠かせない。先程の言葉に通ずるものがある。
南山之寿と共に、チョコミントを嗜み喜びを共有する。これが礼儀だという解釈を強要すること。南山之寿が礼儀知らずである根拠かもしれない。
本日の心得は、礼儀。ここまで、格言で何やかんや呟いてみたが、南山之寿にも礼儀はある。一応は武道に身を置いている。礼に始まり礼に終わる世界。礼儀にうるさい部類かもしれない。
とある休日。無性に二郎が食べたくなり、フラリと出かける南山之寿。静かに並び、手際良く食券を買う。呪文『マシマシ』を唱え、己と闘う。残さず、きれいに素早く食す。これもまた、礼儀かもしれない。
『衣食礼節』
日常の生活が満ち足りて、安定していればこそ、人は礼儀を知り節度をわきまえることができる。南山之寿の胃袋と心は満たされ、安定していた。
食後の散歩も兼ねて駅ビルに立寄る。買い物が終わり、エレベーターを待っていたときのこと。近くを通った親子の会話が聞こえた。
「お母さん。にんにくの匂いがしない?」
「レストランから匂ってくるのかねぇ?」
コロナ前。マスクが当たり前では無い時期。口からなのか、身体全体からか。南山之寿から染み出していた。
お母さん、その発生源は南山之寿。
お嬢さん、申しわけない。本当に申しわけない。
今まで立ち寄った店の店員殿、陰でにんにく野郎と罵ってくれて構わない。
エレベーター異臭騒ぎ。
エレベーター密室殺人事件。
礼儀以前の問題だ。南山之寿は惨劇を回避すべく、階段を静かに降りて行った。9階からの下山は、カロリー消費に繋がった。
『二郎を食す吾人に要求するところは、どこにも寄らず、一人静かに帰宅することである』
――南山之寿
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