第19話 タイミング

六日の菖蒲十日の菊むいかのあやめととおかのきく


 言わずもがな、時機に遅れてしまったことの例え。ちょうど良いタイミングというものは、逃すことも多いと感じる。偉そうに諺を持ち出しておいて何だが、季節のイベントに関してそこまで敏感ではない。


 今日の決め技は、タイミング。単調な攻撃では相手に読まれてしまう。タイミングを崩すフェイントを挟み込むことで相手の裏をかける。猪突猛進型の南山之寿は、このフェイントが苦手であった。基本的に攻撃が単調になるのは南山之寿の悪い癖。話の内容もその傾向。そのくせ、閉口しないのだから救われない。お気づきだろうか。この数行、話題を切り替えるタイミングを見失っていたことに。


 タイミングは食材にも存在する。いわゆる『旬』だ。鮨屋に行けば、旬の魚が顔を並べている。その旨さに気がついているかは別として、『やっぱ旬だよな。脂のノリが違う!』なんて頷いてみる。たとえ鮨の旬を逃しても泣きはしない。


 しかし、チョコミントは別の話。秋には姿を消してゆく。あんなスースーする物質を、寒い季節に食そうとする人間は稀だ。消えゆくのも自然の摂理だと理解しているが、涙無しでは語れない。


 季節の変り目であれば、ドンキや菓子専門店に行けば良い。山積みのチョコミントが、フロアの隅で叩き売りされている。南山之寿は冬眠する前の動物のように、買いだめを試みる。そして、次の夏までチョコミントを繋ぐ。さながら働きアリ。アリも働きすぎるとおかしくなる。貯めすぎたチョコミントが、生活空間を圧迫する。働きアリはキリギリスと変異し宴が始まる。気が付けば、蓄えた物が消えていく。無駄な脂肪が蓄えられる。


『石の上にも三年の結果が、腹の横肉三キロ』


 ここ数年で増えた体重。スーパーライト級とウェルター級の間がベストな南山之寿。ミドル級に近づくのが恐い。階級を下げるべく減量しようではないか。お家時間を利用した筋トレに、ストレッチ。良い感じで肉が削られていく。


『好事魔多し』


 WEBで見つかる数々のチョコミント。『最初からWEBを頼れば良かったのに』と言わないで欲しい。このご時世、実店舗に行かなくても検索すれば見つかるのは非常に助かる。チョコミントビールにチョコミント菓子。勿論、鉄板のアイスは外せない。ちょうど体重が減りかけたご褒美にと購入。良いタイミングには、邪魔が入りやすい。結果はご想像の通り。プラスマイナスゼロ。


『明日は明日の風が吹く』


 明日を心配する必要は無いのかもしれない。ある程度は、通年購入できる時代。食べたいときに食べられる、贅沢極まりない時代。南山之寿もチョコミント三昧という贅沢を堪能する。しかし、贅沢する時機を見誤った南山之寿。人間ドックが近いことを失念していた。


『南山之寿はチョコミントを沢山食べた。なんと尿酸値が上がった!!』


 数値に慄く。まだ、身体に異変は無い。気をつけなければ、この先が恐い。摂生しよう……。


 ――いつか、痛い風が吹かないように。







 


 

 

 

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