第18話 名古屋

『春はあけぼの――』


 この一文から始まる枕草子は、古典日本三大随筆の一つ。作者と言われる清少納言と南山之寿。何の関係もない。強いて言うならば、同じ人間。その程度。


 比内地鶏、名古屋コーチン、薩摩地鶏は日本三大地鶏。どれも美味しい。南山之寿は、地鶏と普通の鶏を見分ける舌を持ち合わせてはいない。三歩歩けば記憶が無くなる鶏頭の南山之寿。都合の悪いことを忘れることに関しては自信がある。


 今日の対戦場所は名古屋。名古屋コーチンからの無理矢理の急カーブ。少々荒い運転だが、途中下車はしないで欲しい。


 名古屋メシが食べたい。南山之寿が計画を立てたあの夏の日は、コロナ禍になる前のお話。入念なチェック。どの店が旨いのか、何を食べるのか。とりあえずは、一泊二日のスケジュール。胃袋の許容量、処理能力を計算しながらピースを組み立てる。旅というのは旅そのものも楽しいが、その行程を考える時間も楽しい。


 いざ名古屋へ。早朝より移動を開始する南山之寿。体調も天気も完璧。闘うにはちょうど良い。名古屋に降り立つ南山之寿。まずは、モーニング。珈琲に付随されてくるアレコレに、コメダ珈琲を思い出してしまうが気を取り直して堪能する。


 名古屋観光をはさみながら、暇つぶしの昼食にひつまぶし。くだらぬことを考えながら、食らう。鰻よりもタレが好きな子供舌の南山之寿。そんな南山之寿に鰻なんて食わすのは、豚に真珠。


 さらに観光を継続。小腹が減ったときのアイテムは天むす。南山之寿は天むすを食べた。しかし、何も起こらなかった。おにぎりが似合う坊主頭。タンクトップを着ていれば、絵になるのかもしれない。


 夕食は味噌煮込みうどん。何で夏の日に、煮込まれねばならないのだろうか。でも、食べなければならない。暑さに耐えてよく頑張ったと思う。南山之寿は南山之寿を褒め称えた。


 ホテルに帰る前に居酒屋を経由。ここで、粗方の名古屋メシを消化する。いささか胃袋は悲鳴を上げ消化拒否。読者諸兄も胃もたれしている頃合いだろう。それでも南山之寿は食べ続けた。ビールに手羽先。名古屋コーチンの焼き鳥。気分良く一日目は終わり、夢の世界へ誘われる。


 翌朝はホテルで朝食。名古屋駅を眼下に見ながらの食事。これは名古屋メシではないなと思うが、宿泊料金に含まれる以上は楽しむことにする。


 翌日も名古屋観光。名古屋城も外さない。金シャチ横丁なるスポットもあり、食も観光も楽しめる一石二鳥感が気に入った。


『織田がつき 羽柴がこねし天下餅 座りしままに食うは徳川』

 

 徳川縁の地で、南山之寿は金箔ソフトクリームを座して食らっていた。身体を定期的に冷やすのは、熱中症対策。今も昔も変わらない、南山之寿のルーティン。昼食には、味噌カツ。とんかつに何をかけるかという議論になると、南山之寿は塩か醤油と答える。ソースは極めて稀。


 旅も終わりが近づく。帰路につく為駅に戻り、最後に台湾らーめんを頼む。ビールに台湾らーめんの辛味が旅の疲れを癒やす。また仕事が始まるのかと、憂鬱になりながらも最後まで堪能する。


 お土産には赤福。名古屋メシか微妙ではあるが、食べたいのだから仕方ない。車窓の外に広がる夜景を見ながら、南山之寿は今回の旅に満足していた。


『夏は夜――』 


 暗闇の中に見える街灯が南山之寿に『また来いよ』と語りかけてくれる気がする。スマホの写真を眺め、楽しい思い出に浸りながら帰路につくはずであった。南山之寿の鶏頭は、極稀に記憶を蘇らせることがある。


『きしめん食べ忘れた――』


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る