第16話 挑戦

『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』


 勝負をするにあたって、相手の状態や能力などの情報を把握すること。そして、自分を客観的に分析し相手と比較する。古来より伝わる重要な教え。意識するかしないかで、結果が変わる。


 今日の戦略は、挑戦。王者として防衛するのではなく、挑戦者として闘うという気構え。南山之寿は、何を言っているんだろうか。そう思ってくれて構わない。南山之寿もそう思っている。


 坊主になる前の南山之寿が、様々な髪型を堪能していた古の時代。友人のパーマを見て、ちょっと試したくなった。何の情報もなく、とりあえず美容院へ。カットとツイストパーマを依頼。基本的に短髪の南山之寿。パーマ施工後にカットすれば、あっという間に素敵な南山之寿の出来上がり。出来上がるはずであった。


 パーマと短髪が合わさり、どちらかと言えばパンチパーマ。その後、二度とパーマをすることなく今に至る。南山之寿に似合うかどうか、事前に知っておくべきであった。


『もうパーマをかけたいなんて、言わないよ絶対』

名曲の言葉を借りるならば、こんな感じだ。


 とはいえ、挑戦者であり続けたい。南山之寿は、そんな気構えで生きている。それは、食生活も然り。とあるらーめん屋に行ったときのことだ。食券機が南山之寿に声をかけてきた。


兄さん試して見ないかい?つけそば特盛


 かなり空腹であり、つけそばならばいけると自己分析。麺の量が1キロと書いてあったが、たいしたことはないだろうと高を括る。店員からも、大丈夫ですかと確認される。かなり多いですよと、念を押される。ここまで来ると、最早意地になる。意地と意地のぶつかり合い。互いに譲らぬ鍔迫り合い。


 結果はご想像の通り。この話の流れだ。負けて当然。あのような量を平然と食すのは、食闘士フードファイターぐらいであろうか。食べ切れたのだが、腹がはち切れる様な痛み。座った状態で上半身をひねると、横腹が痛い。最後の方は、何を食べていたのか記憶も無い。しばらく動けずにいると、店員が心配の声をかけてきた。眼の奥で嘲笑していたようにも見える。


『三十六計逃げるに如かず』


 時には無駄な闘いを避け、逃げるというのも必要である。意地なんて薄っぺらい物は捨てるべきだ。


『同じ轍を踏む』


 あのとき学習したはずの南山之寿。数ヶ月したら忘れている。そしてまた、嘆き苦しむ。

 

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