第14話 理容室

 この地球で繰り広げられる弱肉強食の物語。強い生物が弱い生物を喰らい命を繋ぐ。飢えた肉食動物達は、目の前の草食動物に熱い視線を送る。一匹の草食動物に群がる複数の肉食動物。食事にありつけるのは強者だけ。食うか食われるかの世界ではあるが、必ずしも強者が勝つとも限らない。窮鼠猫を噛むである。だからこそ、均衡が保たれているのかもしれない。


 男子生徒しかいない体育系部活動に突如として現れる女子マネージャー。女性社員だけの職場に配属された新人男性社員。今までの平穏は崩され、熾烈な闘いが繰り広げられるかもしれないシチュエーション。ドラマか小説でしか見ないような光景。必ずしもエースで四番な選手や、才色兼備な女性社員が付き合えるとも限らない。


 駅のホームで和気あいあいと話す中高年グループ。乗り込む瞬間に平穏は崩れる。電車内の空いている席に向かって走り込み座席を奪い合う。闘いの後はノーサイド。また、何事も無かったかの様に和気あいあいと話しだす。駅でよく見かける光景。


 本日の控室は、理容室。この流れではあるが、お付き合い願おう。


 南山之寿は、理容室にも美容院にも行かない。基本的に坊主には無縁の場所。自前のバリカンで刈り揃えるのがルーティンである、バリカニスト南山之寿。略すと、『バカ南山』。自分で言って悲しくなる。


 バリカンが壊れたら、基本的には家電量販店かネットで購入する。可及的速やかに。放って置くと見苦しくなる。坊主が伸びだすと、タワシかマリモ。そんな見栄えはよろしくない。南山之寿にも美学はある。


 壊れたバリカンの代わりを探しに、訪れた家電量販店。その隣がたまたまカット専門店。10分で終わると言うのだから面白い。坊主なんて、ものの数分だ。バリカンを購入した帰りに、冷やかし半分で入店。理容師の視線が突き刺さる。


『坊主が来るところじゃ無いんだよ!』


 そんな視線かと思っていたが思い過ごしであった。南山之寿をチラチラ見る理容師。互いに牽制し合う理容師。さながら肉食動物が草食動物を狙う目つき。南山之寿は気が付く。


 『雑魚モンスター、南山之寿』


 坊主なんてイージーゲーム。歴戦練磨の理容師達からすればスライムレベル。ある意味、勤務中の休憩時間。そう気が付くと、全体の動きが見えてくる。急にカットスピードを上げる者。無駄な動作を交え遅延を計る者。あの手この手で、南山之寿の頭を狙う。嬉しくもあり……否、嬉しいわけなんぞない。


 待つこと十分弱、店の奥にいた理容師に呼ばれた。奥にいたせいか、南山之寿をあまり見ていなかったのであろう。南山之寿の頭を見て笑みがこぼれていた。他の理容師はどこか悲しい目をしていたようにも見えた。


 刈る者がいれば、刈られる者もいる。


 

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