第8話 時代の流れ

 ヒゲを剃り終えた後、洗顔フォームで寝起き顔の不浄を洗い流す。洗顔フォームの潤滑性が、坊主頭のおでこ付近をほど良く滑らせる。掌に広がるゆで卵の殻を剥く感覚。南山之寿のおでこを撫でる感覚は、ゆで卵の殻を剥くと味わえる。


 嫌だ。絶対、嫌ですよね。失礼しました。


『南山之寿は嫌いになっても、ゆで卵のことは嫌いにならないでください!』


 卒業する某アイドル。ゆで卵で思いだすものと言えば、超人プロレスの作者。一世を風靡した。時代に名を刻み、今尚活躍を続けている。お台場の警察官達を取り仕切る管理官は、一世風靡セピア。私の先輩が良く歌っていたことは、どうでも良い。


 今日の入場曲は、時代の流れ。名曲『時代』ではないので、あしからず。


 時代の流れで消えていくモノたち。ヘッドフォンのコード然り。コンビニの蕎麦に付随する麺ほぐし用の水も然り。麦わら帽子のヒゲオジサンのお菓子も然り。時代のうねりが、様々なモノの形を変えていく。

ヒゲオジサンは関西では生存しているから、微妙に違うのかもしれない。


 長い時間をかけて消えるモノもあれば、瞬時に消えるモノもある。コンビニやファーストフードのフェアなんて、気が付くと直ぐに変わってしまう。面白いと思える芸人が始めた番組。感情を揺さぶる漫画。心を癒やしてくれるアーティスト。胃袋を掴んで離さないらーめん。気が付いたときには見失っていた。


 時代の流れは止まらない。待ってもくれない。この瞬間、この刹那を必死に生き、楽しむしかないのかもしれない。テレビ番組内で、五年前にインタビューされた一般人のその後が流れていた。五年前ではなく、数ヶ月前ではないかと錯覚してしまう。時間感覚のズレに卒倒しそうになる。


 時代の流れの中、変わらないものがあるとすれば子供の純粋さ。無邪気で、真っ直ぐな正直さ。子供達の言葉には嘘偽りはなく、思ったことが言葉となる。


 コロナ禍の前。年末年始は、一ミリに刈りそろえる。一年の穢れを禊ぎ祓い、心あらたに新年を迎える。新しい一年の安寧を祈願し、無事に過ごせた一年に感謝するために神社に参拝。私の後ろに並ぶ子供とその親御さん。四歳から五歳といったところか。


「お坊さんがいるね!」

「しぃっ!!!」


 皆様の予想通り。南山之寿、神社に参拝するお寺の住職と間違われる始末。いっそのこと、転職してしまおうかと悩んだとか悩まなかったとか。年末に書こうとしたこの話。気がついたら真夏。光陰矢の如しとは、まさにこのこと。


 今朝も、ヒゲを剃り終えた後、洗顔フォームで寝起き顔の不浄を洗い流す南山之寿が鏡に写っていた。この流れだけは、毎朝ループしている。

 

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