第6話 らーめん

 皆様、こんにちは。スマホの目覚ましアラームより早く起きる南山之寿です。加齢による覚醒ではありません。断じてありえません。アラームより早く鳴きだす蝉。家の外壁は野外フェス状態。野外フェンス野外フェス。しかしながら、目を覚ますといなくなる蝉。存在していたのか、いないのか。


 ――目の前にあるものが全て存在するものであるかはわからない――


 有名な哲学者のお言葉。嘘です。南山之寿が適当に呟いた戯言。今、皆様が読んでいる文章。これは間違いなく存在する文章。作者はその先にいる。安心して頂ければ幸いです。南山之寿は居ますよ。


 今日の闘技場は、らーめん屋。


 らーめんは国民食。老若男女が好きと信じて止まない。遅い昼食に入ったらーめん屋。今日の気分は豚骨。ギトギト脂に、針金の様な麺。全身全霊ですすり倒したい。


 食券を購入し待機。横には男女ペアの先客。仲良く美味しそうに食べている。微笑ましいじゃないか。次の瞬間、私は絶句した。


「この豚骨スープ、サッパリしてるね」

「いや、コッテリだろ!」


 女性客の一言。すかさず突っ込む、男性客。しばらく、無言で麺をすする二人。ようやく発した言葉。


「替玉一つ」


 いかん。自分のらーめんに集中せねば。もう、運ばれてくる。とりあえず、二人の存在は無かったことにする。


 一心不乱に麺をすすり、分厚い肉を噛み切る。ドロドロに仕上がった、コッテリスープを喉に流し込む。しかしながら違和感が。頼んだはずの味玉がない。もう食べたのか。丼の底で沈んでいるのか。


 なんてことは無い。別皿で運ばれてきた。入れ忘れ。そんなこともあるのだろう。先入観で存在を信じてはいけない。そう教わった気がする午後の一時。


 となりの客が席をたつ。私より体格の良い二人。どうやら、デザートを食べにハシゴをするようだ。そんな情報を大声で話すものではない。


 二人の甲高い笑い声を蝉の声がかき消してくれた。

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