伊佐与、暴走

「はい。ありがとうございます」


 あまり経験のない大人な対応に少し戸惑いつつ、お礼の言葉を絞り出した。


「あ、こんないい人風のこと言ってますけど、この人の呪いが『第一印象で怖がられる』だから蓮陽くんに勝手に共感してるだけですからね」


 なのに、人の感動をぶち壊すように伊佐与さんがいらない事実をぶち込んできた。


「おいいのり、せっかくいい雰囲気で話が進みそうだったんだから余計なこと暴露するなよ」

「でも事実じゃないですか。打田さん、つい最近もマッチングアプリで出会った子に泣かれたって情報が回って来てますよ」

「は? なんで?」


 店長の表情が一気に強張った。


 そうなっても当然の情報が流出していたのだから怖いなんて思うことはない。


「ふふっ。打田さんの失恋は身内では恒例の行事になっているので、逐一お知らせが回ってくるんですよ」


 驚きとショックが限界を超えたのか、店長の動きが止まってしまった。


 ただ口をパクパクさせてはいるので何かしら言いたいことはあるらしい。


「あの……きっかけが何にせよ、僕はそれでも嬉しかったですよ。本心で普通に接してくれる相手は滅多にいないですから」


 そんな空気に耐えかねて咄嗟にフォローしようとして……明らかに言葉選び間違えた。


「ブフォ!」


 後ろで思い切りよく吹き出す音が聞こえる。

 僕のコミュ力の低さを知っていながら、少しも手を貸してくれる気のない裏切り者の声なのは確かだけど、この恨みはあとで晴らすとしよう。


「ああくそ! 俺のことはもういいから道具の話に戻すぞ! あと、これ以上いのりが余計なこと言うならブラックリストに入れてここの四人まとめて出禁にするからな」


「うわ、大人気ないですね。さすが非モテの呪い(笑)の——」


「はーい、そこまでにしようないのり。ごめんなさい打田さん、さすがに出禁は困るんでやんちゃなお嬢様はこっちで回収しときますね」


 本気だったのかはともかく、最終警告が出てもブレーキが効かなかった伊佐与さんを、漢太が後ろから口を塞いで引きずっていく。


 できればもう少し早く動いてくれればと……まあ、考えないことにしよう。

 

 

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