元考古学者の人格
「……まあ、なんというか、仲良くやってるならそれでいいよ」
店長は考えるのをやめたらしい。それで正解だと思います。
「それで、今日は何の用でやって来たんだ。学生相手じゃ大した物は売れないだろうし、やっぱり道具の装飾か?」
「いえ、今日は普通にお買い物の予定です。この前のペアマッチで遺跡の擬似体験をしたのもあって、少しでも本格的な道具を持ってみたいと思いまして」
「本格的ね……。学生さんにはまだ必要ないとも思うけど、形からでも向上心が芽生えたって話なら少しくらい協力してやれるかもな」
少し怖さを中和させる笑顔で店長が店の中を見回した。
もちろん今の理由は遺跡での実習を公にできないからこその嘘だが、どうもこの人、乗ってくれてはいるけど本当のことに勘づいているような気がする。
「では元考校の生徒として、持っておいた方がいいと思う物をいくつか教えてもらえますか?」
「いいぞ。つっても最低限は最初に支給されてるだろうし、俺のいた頃より物の質も上がってるだろうから何に手をつけるべきか悩ましいところだが……ひとまずペアマッチで足りないと感じた部分を補ってみるか」
「足りないですか。そうですね……」
伊佐与さんは答えが見つからないのかその場で唸り始めた。
漢太はそんな少し気の緩んだ伊佐与さんを楽しんでいるらしく話に参加はしなさそう。
「……なら、安全を確保するための道具、ですかね。ロープ、罠を感知する道具、少し大袈裟に警戒するなら防弾仕様の服とか」
かなりの躊躇いはあったが命に関わることなので勇気を出して意見を出してみた。
相手は初対面で学校関係者じゃない。その上僕のことを知っているとなれば、僕のような人間が率先して意見を出すことをよく思わないかもしれないけど……。
「お、いいところをついたな。ペアマッチじゃそもそも装備が限られているってのはあるけど、確かに一番欠けているのは安全面だ。まあ教師が血眼で監視して必要にならすぐに駆けつけるって体制が整ってる以上必要ないと判断されるのも当然のことではあるけどな」
「え、あ……はい。そう、ですね」
「どうした、そんな驚いた顔して? もしかして俺が他のアホと一緒で先入観なんかで羽沢を遠ざけようとすると思ったのか?」
寸分違わずその通りだった。
僕はそうやって生きてきたのだから、初対面で考古学の関係者が親しげにしてくれるはずがないと、確信に近い思いがあった。
「……すみません」
「いや、こっちこそ悪かった。他のアホ達から扱いを考えれば卑屈になるのも仕方ないだろうしな。まあとりあえず俺は、貴重な研究資産であり後輩でありお客である羽沢を拒否しようなんて思わないから気軽に接してくれよ」
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