挨拶だけで困惑される
「はははっ、仲良いんだな」
「おっと挨拶が遅れました。いのりさんとお付き合いさせて頂いてます、剛田漢太と申します」
「そうかそうか…………ん? お付き合い?」
漢太の自己紹介を飲み込むのに数秒かかった店主から笑顔が消えた。
事情を説明させるのが先か、僕たちの自己紹介を割り込ませるのが先か……。
「すみません、ちゃんと一から説明させますので先に僕たちの方から。僕は羽沢蓮陽、こちが僕のペアで」
「石川風香、です」
後者を選んだ僕が漢太の前に割り込むように自己紹介を済ませる。ついでに風香にも振ったので後は当人たちに丸投げでもいいか。
「あ、ああ。君達が有名な羽沢くんと石川さんか。噂は予々、本当は色々聞いてみたいこともあるんだけど、先に片付けないといけないことがあるから少し待っていてもらえるかい?」
「もちろんです。尋問でも拷問でも好きにしてやってください。無駄に頑丈なんでやり過ぎるくらいで大丈夫ですよ」
「いや、そこまでするつもりはないんだけど」
困った顔をした店長は少し考えるような仕草をした後、顔を上げて漢太と目を合わせた。
「あまり人の恋愛とやかく言うものでもないだろうしら一つだけ聞かせてくれないか?」
笑顔を絶やさない漢太は「はい」と短く返事を返す。
「いのりを傷つけるようなことはしないと、君は約束できるかい?」
「……はい」
もう一度短く返した漢太だが、今度の表情は真剣そのものだった。
「そうか……。昔は『お兄ちゃんと結婚する!』と甘えてきてくれた子が彼女を連れて来たのには驚いたけど、剛田さん、君のことを信じることにするよ」
「打田さん! そんな昔のこと掘り返さないでください! あと漢太ちゃんのことは簡単に信用しない方がいいですよ。どうせ猫被ってるだけなので」
「え、でもいのりの恋人なんだよな?」
また店長が眉をひそめる。
ただ女性関係においてなら漢太を信用するなという伊佐与さんの意見に同意せざるを得ない。
「はい。でもいろんな女の子食べまくってるいわゆるビッチですよ」
ただ、不思議なことにこんな調子でも恋人関係は成立してしまうのだ。
「失礼だな〜。そこは、『美女に飢えた女豹』と言ってもらいたいね」
「ふふっ、今の発言で寿命が縮まりましたよ。もちろん漢太ちゃんの」
もう一度言う。
これでも恋人でいられてしまうのだ。
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