巫女、油断
店の入り口くぐってからさらに数分。
遺跡を意識した(と思いたい)急な下り階段に薄暗い廊下をくねくねと進み、ようやく本当の入口らしき扉が見えてきた。
「これも趣味?」
と曲がり角ごとに誰かが伊佐与さんに聞く行事も風香のこれで遂に最後になったはず。
「ええ。いい性格してますよね」
そして毎度同じ答えを返してきた伊佐与さんも、ようやく見えた終わりにため息をついた。
「店長、お久しぶりです」
「ん? ああ、誰かと思ったらいのりか。見ない間にまたデカくなったか?」
パッと見の印象としてゲームで見かける銃の店を思い出させる内観に、確かに考古学に必要な物が並べられている店内。
そしてその一番奥のカウンターの向こう側には無精髭を生やしやつれた顔をした細身の男が座っていて、伊佐与さんを見かけるなりニッと笑みを浮かべたが、その低く重い声のせいか、怖い顔立ちのせいか、咄嗟に少し身構えてしまった。
「久しぶりに会って早々セクハラですか?」
「人外だな、俺が言ってるのは身長の話だぞ。オマセさんなのは相変わらずだな」
ただその人と伊佐与さんは知り合いらしく、僕たちといる時以上に気を緩めた伊佐与さんの姿にこちらも警戒が緩んでいく。
「私、もう十七歳なんですが? いい加減子供扱いはやめてください!」
「はいはい。そういうのはせめてお酒を飲めるようになってから言うんだな」
「そんなこと言って、お兄……打田さんだって一口でひっくり返るくらいお酒弱いじゃないですか。そんなので大人名乗ってもいいんですか?」
仲のいい兄妹のような会話に、聞いているこっちは徐々に和んできていたが、ふと店主らしき男の目線が僕たちを捉えた。
「それよりいのり、今日は客として来たんだろ。せめてそっちのお友達の紹介くらいしたらどうだ?」
「ふふっ、言い逃れができなくて話を逸らしましたね?」
「そうじゃなくて、久しぶりのお兄ちゃんに大喜びのいのりの代わりに大人の対応を見せてやってるんだよ。なんたって、お・に・い・ちゃ・ん、だからな」
「むぐっ!」
聞いたことのない可愛らしい声が漏れた直後、顔を真っ赤にした伊佐与が振り返り「なにも聞かなかったな?」と目で睨みかけてきた。
咄嗟に顔を逸らすと、その先で風香と目が合った。
「オレもいのりに『お兄ちゃん』って呼ばれてみたいな〜。チラッ」
「まったく漢太ちゃんは……まあそのうち殺すので今回は許してあげますよ。ただ、今の『チラッ』と言ったのは気持ち悪かったので寿命が縮まったと思ってください」
変わらず空気を読まない漢太に、ため息混じりに伊佐与さんが殺す宣言を行なった。
巫女さんの言うことなので将来的に実現されるだろうし、漢太にはどうか安らかに逝って頂きたい。
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