店構え

当初の目的の店は、繁華街から一本狭い路地に入った場所に居を構えている。


 別に違法な物やそれに近しい物を扱っているわけではないし、むしろ大通りに店を構えているのが一般的なくらいなのだけど、なぜか考校最寄りの考古学者向け専門店、通称考専は人が寄り付かなさそうな場所にあったのだ。


「どうりで知らないわけだよ」


 ボロボロなコンクリート製で、廃屋と言われても違和感のない外観に漢太が文句をこぼした。


「この外観は店長の趣味だそうですよ」

「趣味ね……考古学の関係者は癖のある人しかいないのか?」

「現役の考古学者で考校で先生をしていた時期もあるそうなので『考古学者は』って言い切っていいと思いますよ」


 カップルが分かりきったことを話しているのを横で聞きながら、古ぼけた外装から店名がないかと文字列を探す。


「それで、店の名前はなんていうんだ? パッと見看板も見当たらないんだが」

「お店の名前は『弔合戦』ですよ。思いつきでつけたはいいけど身内からクレームが殺到して表に看板を出せなくなったって聞いてます」

「そう……やっぱ考古学者って奴はどうしようもないってのだけは分かったわ」

「否定はしませんけど、自分もその一員だってこと忘れてないですよね?」

「もちろん。その中でもマシな方だってこともよく分かってるよ」


 何も言わず、ただため息をついただけの伊佐与さんが「入りましょうか」と先を歩き出した。


「あれ、みんなして反応悪くない?」


「ここに学生証をかざしてください。入店する人は全員読み込ませないといけないので準備しておいてくださいね」


 そう言って伊佐与さんが一目見てそうと分かる鉄製の扉の横にある、壁の汚れに溶け込んだカードリーダに学生証をかざす。

 すると何の変哲もない電子音に続いて鍵の開く音が聞こえた。


「さあ、みなさんも」


 促されるまま漢太が、次に僕が、最後に一生懸命背伸びしてようやく風香がカードリーダーに触れた。


 決して子供が頑張る姿に癒されていたわけではなく、風香の自主性に任せたが故に手伝わなかったと主張しておく。


「それでは中に入りましょう」


 伊佐与さんがノブに手を掛けると、重たい音を立てながら扉がゆっくりと開いていく。


「ところで蓮陽、なんでさっきから少し機嫌が悪いんだ?」


「……別に」


 ありもしない探し物をしていて、挙句その答えを別の人の質問で知ることになったから。


 なんてくだらない理由でちょっとむくれているとなんてとても言えません。

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