授業10.3


「一番代表的なところでシンプルにイラストや写真をプリントするタイプですね。最近ではアニメのキャラクターや好きなアイドルの写真がプリントされた氷銃を持った生徒が多かったように見えます」


 苦笑いを浮かべながら、黒板の真ん中に「プリント」と書かれた。


「その中でも水着姿の写真や枕カバー? にプリントされるらしい際どい格好のアニメキャラクターを選ぶ羞恥心に欠けた生徒もいるようです。特に! ジュニアアイドルの写真を氷銃にプリントした不届者もいるようですが、ああいう輩は滅んで…………いえ、生徒をあまり悪く言うものではないですね」


 男は自分を落ち着かせようと、ため息混じりに息を吐いた。


「あまり世間にウケの良くない装飾も多くなってきていて少しヒートアップしてしまいました。どれも法を犯すようなものではないので私から言えることは何もないのですが、みなさんは常識的な装飾をしてくれるものと信じていますよ」


 常識を逸した道具を使っているくせに……。

 そんな思いがよぎる生徒もいたが、言いたいことは理解できるからと静かに流した。


 ペアマッチ後半、注目の三ペアが協力して遺跡を出ようとしたあの盛り上がりを見逃した生徒の方が少なく、だからこそ立ちはだかったあるペアの使っていたロリロリしい装飾が目に入ったはずだったから。


「では最後に、小話でもして終わろうと思います。テストには出ませんが、考古学者を志す者として覚えておいてもらえると幸いです」


 そう言って男は目を閉じ、何かを思い出すように語り出した。



「今となっては個人の趣味や嗜好、果てには性癖を表現するコンテンツとなっている道具のカスタマイズですが、元は道具の開発が発展途上だった時代に、暗い遺跡内で誰が、どこで、どの道具を使っているのかを分かりやすくするための目印でした。盗掘者と間違えて攻撃されないために、他の人が作動させた罠に巻き込まれないようにするために、そのような自身を守るためのものであると同時に、自分が間違えないように、巻き込まないように、と仲間を守るための目印であったことを知っておいて下さい」

 

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