授業・10
前回の授業の翌日。空いた隙間に突如差し込まれた男の授業に、参加した生徒達は警戒心を抱いていた。
「みなさん、そんなに気を張らなくてもいいですよ。忙しいロイ先生の枠が空いたのでその穴埋めをしただけのことですから、小話を聞くくらいの軽い気持ちでいてください」
そう言って仕掛けてくるのが常套手段だと知ってはいるが、急な授業に覚悟を決める余裕がなかったせいか言葉通り気を緩めてしまう。
「さて一週間も過ぎて今更だとは思いますが、みなさんは今回のペアマッチで何か得るものはあったでしょうか? 来年は自分たちの番だと思えばこそ、感じるものがあった人もいると思います」
生徒達の反応はまちまち。頷く者、次が自分たちの番だと今になって気づく者、いまいちピンときていない者。確かなことがあるとすれば、この場の全員が分け隔てなく同じ試練に臨まなければいけないということだけだ。
「本日はそんなペアマッチの……少し脇に逸れた話題をしていこうかと思います」
男の声に、雰囲気に、言葉に、さらに生徒達の緊張が解けていく。
実際、男もこの授業を緩い空気間で進めるつもりなのだが、いまだに戦闘態勢を緩める様子のない生徒がいくらか残ってしまっているのは、まさに日頃の行いのせいだろう。
「ペアマッチ二回生にとっては初めての実践形式の授業であり、あなた達一回生にとっては初めて見る本格的な実技だったわけですが……みなさん、参加した先輩達の手元を見て何か感じたことはありませんか?」
その問いに、生徒たちはまだ新しい記憶を辿った。
「……緊張もあったと思いますけど、道具の使い方が辿々しく感じました」
そしてやっとのことでその答えを捻り出した女子生徒に対して、「今日はそういうのは求めてないんですよね」と男は一蹴。
「じゃあ……持ち物が派手だった?」
今度は男子生徒の一人が思いつきを口にする。
すると男はウンウンと頷きながらその生徒に向けて小さな拍手を送った。
「その通りです。今回のお題は道具について。前に扱ったテーマのおまけのおまけと言ったところでしょうか」
しかし、「道具」という単語におまけのおまけと言われ、以前の授業でのおぞましい光景を思い出した生徒たちは余計に身構えてしまった。
「おや、みなさん表情が硬いですね。ですが安心してください。この授業が終わる頃にはみなさんもオリジナルカスタマイズに夢中になっていることでしょう」
自身の前科に気づかない男と生徒たちの心の距離はさらにかけ離れていく。
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