最後の休日・起


 見学者としてではなく、卵とはいえ考古学者として遺跡に入ることができる。


 決して口外できないという状況も手伝って、興奮冷め止まないままに半月が過ぎた。


「ヒ・ミ・ツ……ヒ・ミ・ツ……」


 一方で人望の厚い漢太はペアマッチが終わってからここまでご褒美について聞きたいお友達が絶えなく集まってきていた。

 もちろん遺跡のことを言うわけにもいかず、かと言って嘘をついて矛盾を見破られても困るからとあの手この手で誤魔化し続けた結果、一番効果のあったお色気作戦を無機質に繰り返す悲しき生命体が爆誕したのである。


 一方で同じく人気者な伊佐与さんはと言うと、下心を相手に感じるや否や「占い」という武器を使った脅しによって比較的平和に日常を過ごしていた。


 ……僕たち? まさか少し目立ったくらいで人が寄ってくるようになるとでも?


 そんなある日の午後、授業も終わり変わらず人に囲まれる漢太を他所に、伊佐与さんが僕たちにそろそろと近づいてきた。



「あの、少しいいですか?」



 内緒話という雰囲気だが、いつもの漢太なら聞き耳立てていてもおかしくない声量で話しかけてきた伊佐与さんに合わせ、少し声を落とし気味に「どうしたの?」と返す。


「漢太ちゃんのことなんですけど……このままだと良くない気がするので少し気晴らしをさせたいなと思っているんです」


 伊佐与さんに合わせて人壁の隙間から漢太を覗き見る。


 一見普通の会話をしているようだが、所々テンプレートを貼り付けたような片言が混ざっている。

 それでも笑顔だけは完璧という点は称賛すべきなのかもしれない。


「気晴らしか……なら伊佐与さんが漢太を甘やかしてあげたらいいんじゃないか? ほら、ペアマッチの時に言ってた膝枕みたいな」


「膝枕ですか? 膝の上に石なら積んであげたんですが」


 興味よりも自衛を優先して、本当にやったんだ「石抱き」という感想を飲み込んだ。


「やっぱりダメ?」

「そうですね。いくら付き合っているとはいえあそこまで下心を丸出しにされると流石に……」



 なら漢太が悪い。



「ただ、それだと他になにか気晴らしを考えないとだけど」


「ん〜……なら、お買い物なんてどうですか? 私、考専ショップに行ってみたかったんです」


 考古学者専門ショップ、略して考専ショップ。

 その名の通り考古学者に必要な道具を専門に扱うお店であり、全国にある同系統の店の総称だ。

業務用スーパーみたいな感じ。


「それって自分が行きたいだけだよね?」

「ではダブルデートってことでどうですか? それなら漢太ちゃんも喜びますよ」

「そうかもだけど、それ僕も風香もいらないよね?」


 サラッとダブルデートとい単語を使われたが、漢太と伊佐与さんに散々カップルいじりをされたせいで慣れてしまって、もはや気にすることもなくなってきていた。


 風香もいつも通りスンと……していて欲しかったけど、伊佐与さんのある一点を睨んでいるので気にしていないことに変わりはない。


「いいえ、私たちは四人で一チームなんです。全員揃ってないと意味がありません!」



「……なんか、いつになく前のめりだね」


「はい、これでも巫女の呪い持ちなので!」


 小声を忘れ、ボンッと胸を張った伊佐与さんに、教室のどこかから歓声が上がり、なぜか隣から僕の腕がつねられた。



 痛いし断れないし痛いし。ほんと理不尽である。

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