各ペアの選択
「さてこの特別なご褒美ですが、先も言ったように危険を伴いますし最悪命の危険さえあります。なので、皆さんには選んでもらおうと思っています。リスク承知で遺跡に行くか、最初の予定通りに博物館内部の見学に行くか、ペア同士で相談して決めてください」
パンと手を叩くと「どうぞ考えて」と急にシンキングタイムが始まったらしい。
ただ、僕も風香も考えるまでもなく、話し合うまでもなく答えは決まっている。そんな共通認識を一瞥だけして確かめ合う。
「なに二人だけで通じ合ってるんだよ。まあでも話し合うまでもないことだろうし、オレは二人の決定に従うよ。伊佐与はどうする?」
「私もそのつもりですよ」
「へえ、珍しく積極的だな」
漢太と伊佐与さんのペアも意見が一致していてすぐに雑談が始まった。
雅と吉田も少し話しただけで結論が出たらしくすぐに二人して前を向き直した。
「どうする?」
次々と即断で結論が出ていく中、後から来た二組は正しくこの時間を使って話し合いをしている……から、時間潰しがてら話を聞いてみよう。
「わたくしは遺跡に行きたいですわ」
一組目は女子二人組。百合の花の香り(イメージ)を纏うお淑やかなフローラさんと、薔薇の香り(イメージ)を纏うイケメンなルーさんの通称フローラルペアで、漢太・伊佐与さんペアと並ぶ学年人気トップ2のペアだ。
ちなみにフローラさんの本名、花畑薫子を口にすると消されるという都市伝説があったりする。あとルーさんは本名らしい。
「僕も気持ちでは賛成だけど、やっぱりキミを危険な場所には連れていけないよ」
「あら、もしもの時はルーが守ってくれるのでしょう?」
「もちろん。と言いたいところだけど、個人ではどうにもできないレベルの危険が潜んでいるかもしれないんだ。その時はいくら僕でも守り切れる保証は——」
「言い訳無用です。わたくしが『守れ』と命令したら『はい』とそれに従うのがあなたの役目ですわよ」
「…………はい、この身に変えてでもお守り致します」
実際の身分は知らないけどお嬢様とお付きの騎士、みたいな関係なのだろう。もはや相談ではなく命令で遺跡行きが決定した。
過程はともかく結論は出ているわけだし、ひとまずもう一組を観察してみよう。
「行きたい」
「行きたくない」
フローラ組の話し合いが終わってもなお続いている相談……というかただの我儘の押し付け合いをしているのはペアマッチで最後に勝ち残った男子ペア。
良し悪しは抜きに有名な他のペアとは違う唯一の一般枠と言ってもいいのかもしれない。
表彰式で名前をちゃんと聞いていたわけじゃないから曖昧だけど田中とか田口とか二人とも「た」の付く名前だったような気がする。
「この機会を逃したら次に遺跡に行けるのは来年以降なんだぞ」
「実力が足りないのに勇み足で死んだら来年どころか一生遺跡に行けなくなるだろ」
「それは……」
「俺たちの実力はここいる誰よりも低いんだ。みんなが行くから自分もだなんて子供みたいな考え方をしてると本当に命を落とすことになるからな」
言い逃れようのない正論だろう。仮に実力があったとしても気持ちと覚悟が伴わないなら遺跡に足を踏み入れるべきではないと思うし、ここですぐに言い返せないのならその程度ということだ。
「…………」
「それに思い出してもみろ、俺たちの目的は遺跡の探索じゃなくて遺物で金儲けすることだろうが。目的の達成もできないのに参加する意味があるのか、ちゃんと考えてみろよ」
これで結論が出ただろうな。
金儲けが目的なんてよく聞く話だし、それよりもたった一年で金儲け目的の生徒に一瞬でも遺跡への執着を植え付けることに成功しているこの学校の教育の功に恐怖を覚えるべきかもしれない。
「…………そう、だな。今回は見送ろう。遺物の価値を知るって意味でも博物館の見学だって得られる物が多いかもしれないしな」
最後に「ありがとう」「気にするな」と短いやり取りをしたところで最後の二人の話し合いが終わった。
「これで全員の結論が出ましたね。遺跡への参加が四組、博物館の見学が一組でいいですね?」
答えを直接聞くこともなく正しく全員の答えを並べた校長に全員が頷きを返す。
「よろしい。ご褒美の話これから部屋を分けてそれぞれのご褒美について説明しましょう。ということでロイ君、博物館組の二人を連れて部屋を変えてもらえますか?」
「分かりました。ここに問題児と校長だけを残すのは大、変、不安なのですが、仕事のですので失礼します」
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