ゴール
「配下って……いやまあ通れるならいいんだけど」
自分の方が立場が上だと思っている雅は少し納得いっていない様子だが、気にしないことにしたらしい。
「次の占いをしておきました。次はカップルなので漢太ちゃんが行けば問題ないですね」
軽蔑した表情で信徒の横を通り過ぎる吉田のさらに後ろで、伊佐与さんが手際良く前を行く漢太に指示を届ける。ロリコン共は視界には入っていないようだ。
「カップルか……やりすぎてもいいのかい?」
「修復可能な範囲でな」
ニヤッと悪巧みをする漢太を時間もないので言葉短に諌めておく。それでどこまで加減してくれるのかはわからない。
一度上り始めればゆっくり休憩する余裕はなく、すぐに次のお邪魔キャラに到達する。
伊佐与さんいわくカップルの男女、イチャイチャする場でもないので甘い空気にはなっていない。
「やあ、一昨日ぶりだね。広大、今度はいつ二人きりになれるのかな?」
階下からだからこそできる隙のない上目遣いと際どい発言で場を濁らせる。接敵三秒での出来事である。
「香苗も最近よく部屋に来てくれるよね。楽しいから嬉しいんだけど、毎晩激しいから次の日大変なんだよ」
すかさず取り付けた地雷の上に時限爆弾を置いた漢太は一段階段を下りて顔を見合わせるカップルを見つめる。
「……ねえ、二人きりってどういうこと?」
「そっちこそ、毎晩激しいってなんのことだ?」
爆弾のカウントは残り数秒というところか、空気が険悪な色を帯び始めた。
「あっ、俺たち上に用事があるんだけど、通っていいかな?」
「そうね、今はそれどころじゃないし」
「そうだな。俺たちは今から話し合いをしないとだから通ってくれ」
これで二組目も攻略完了。残した傷跡は大きそうだけど、きっと愛の力でなんとかしてくれるはずだ。
「ありがとう」
「では次を占いますね」
笑顔で二人の間を通り抜けた漢太に続いて伊佐与さんがサラッと通り過ぎた。自分たちのカップルにはまるで関係ないかのように。
「「…………」」
一方でカップルではないがペア関係を崩される可能性がある雅と吉田は爆発間近の二人に悲しい目を向けながら通り過ぎていった。
「次は……蓮陽くん、お願いします」
「……え、僕?」
一番後ろから自分だけは関係ないと決め込んでいたせいで一瞬反応が遅れた。
「はい。次の二人は怖がりなんです。知られたくない嘘があるとか」
「なるほど、それなら確かに僕の番だけど、あんまり期待しないでくれよ?」
列の前にでながら伊佐与さんとすれ違う時、少し圧が強めの笑顔を向けられた。
占いを信じ切っていないことで怒らせてしまったかもしれない。
「…………」
味方の機嫌なんて案外余裕のあることを考えながら一番前に出ると、人の顔を見るなり表情を強張らせた男子二人と相対する形になった。
「嘘の匂いがするな」
嘘は好きじゃないし、自分が嘘をつくのは例外というわけでもない。それでも遺跡というあらゆるものが限られた空間で使えるものは使う。その割り切りはできているつもりだ。
「そんなわけっ!」
男の一人がすんでの所で言葉を止めるが、結果として嘘があると全員にバラすことになった。
「そう、そういうことか……」
男の反応に対してまるで全て分かっているかのように装う。もちろん何一つ分かってはいないが、殴って解決を避けるには十分なはず。
「ここを素直に通してくれたら何も言わないし今のことも忘れてやるけど、どうする?」
人を殺し、自分も死ぬ可能性のある考古学者になりたいと思う人たちには他人に知られたくない秘密を持っているタイプが多くいる。そんな二人が互いの秘密を知らないままペアを組んでいるのだから、こと秘密や嘘に対して怖がりなのは仕方のないことだろう。
黙って道を開けてくれた二人は体術の成績で上位にいるのを見たことがあった。それを戦闘なしで回避できたのだから占いには感謝しないとだ。
「……なんか、思ってったのと違う」
しかし、ここまで戦闘を回避できるとは思っていなかっただろう雅がボソッと不満を漏らした。
「そういうことでしたら、次は春日井さんが行きますか? 次は私が行けば戦闘なしで進めますが、お譲りしますよ」
一番後ろの雅に振り返った伊佐与さんが尋ねる。
効率を考えれば伊佐与さんに任せるのが一番だと雅もわかっているから少し悩みはしたようだが。
「そうだな。なら任せてもらうよ。なんならこの先全部俺に任せてもらってもいいんだぞ」
どうやら吹っ切って効率度外視の欲を表に出すことにしたらしく、ズンズン前に歩み出して行く。
そのおかげで止める前に雅が次のペアに突っ込んでいき、鬱憤が溜まっていたのか交渉する暇なくあっけなく二人を戦闘不能に追い込んだ。
「次!」
階下に突き落とされることを免れた二人が壁にもたれ掛かるのを横目に、雅が勢いよく階段を駆け上がっていく。
占いの内容どころか他のメンバーすら置いてきぼりを食らっているが、唯一ペアの吉田だけは彼の後ろにしっかりとついて行っていた。
「あっぶ!」
ちょうど転がり落ちてくる人を受け止めながら、呻き声をあげながら横たわる人を極力視界に入れないようにしながら、前の二人を見失わないよう追いかけていった。
「よし、次に進むぞ。ほら、出口も見えてきたしここまでくればあと影の見えてる二つペアをのせば俺たちの勝ちだ」
雅の言葉に釣られて見上げると、久々の陽の光に一瞬目が眩む。
ゲームだと残る二ペアが強敵という展開になりがちだが、この場に残っているのは強さで言えば下位に位置するペアだけだ。
階段を占拠するペアたちの中でも場所取りの勝負があっただろうが、弱いペアの間に強いペアが陣取るのが強いペアにとって一番有利となる。今回なら雅が蹴落としたペアがそれにあたる。
「……あとはやっても面白くなさそうだし、誰か代わりに出るか?」
もう本当にゴールも間近、のはずのタイミングで足を止めた雅が「飽きた」と言い出した。
当然その提案を受けた全員が「は?」と顔を顰めた。声に出さなかったのがむしろ偉いくらいだ。
「えっと……いいわ。ペアの尻拭いは私がやるから」
言葉端にため息を交えつつ、誰かに確認を取ることもなく吉田が歩き出した。もちろん僕も残りの面々も異論を唱えない。
「……今日の反省会、いつも以上に厳しくいかないとね」
聞こえるように呟いて歩き出した吉田に、「やばっ」と声を漏らす雅だがもう遅い。
吉田が相手ならと期待と油断をして飛びかかってきた男子ペアを瞬殺。
最後の男女ペアは吉田を見て即降参した女子に対し、男子が奮闘を見せるも数秒で決着がついてしまった。
「さあ、行きましょう」
あっという間に二組を倒し、振り返った吉田の表情はどことなくスッキリしているようにも感じる。
「そうだな。脱出の順番は一番の功労者の雅と吉田のペアが最初で……オレたちは順番はどうでもいいけど、ここは蓮陽たちに譲るよ」
行きをゆっくり確実に降りた階段を駆け上がり、ようやく辿り着いた出口は結局実力の差を見せつけられるだけだった二人の背中を見ながら歩み出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます