戦後処理(後半)


「プッ……そ、そうだな、じゃあ二人が持ってる当たりの遺物を貰おうかな」


 あらぬ罪で雅に睨みつけられるよりも、親友が冤罪被害に遭っていることを面白がって笑いを堪えているのを見る方がよっぽどムカつくんですけど。


「え、ええ。これが約束の遺物よ。……あとごめんなさい」


「慣れてるし別にいいよ。それよりこれ、指輪だよな。どうやって判別したんだ?」


 吉田から受け取った指輪は見るだけで間違いなく指輪だと判断がつくが、その素材は石材で、結婚指輪やアクセサリーとして金属製の物が一般的には知られているが日本でも弥生時代には中国から伝わっていた、らしい。


「さすが雑魚、やっぱり分かんないか! ……と言ってやりところなんだが、指輪の見た目だけじゃ分かんないだろうな。この指輪が置いてあった台に色々と呪術的な装飾が置かれていたんだよ。そっちの巫女さんが見ればもう少し正確に判別できただろうけど、この場で真贋の判断をしないといけない以上勘と運頼りになるのは仕方のないことだろ」


 確証を持って判定したわけじゃないことを悔しがりながらも話す雅だが、実際詳しい遺物の鑑定には機械を用いたり資料と照らし合わせたりと手間をかける必要がある。


 この指輪に限らず土偶でも、本物だと言い切ってはいるものの実際のところ出口まで無事に持ち帰るまでは個人の感想でしかないのだ。

 今回の場合、石やら貝なんかの素材を使った古代の指輪は呪術的要素を持っているという知識が自信を底上げしてくれているだけであって、雅個人への感情はともかく俺もその意見や考え方には同意しかない。


「まあ……そういうことなら信じるしかないか。土偶も実物に近い物があったわけだし、学校がよっぽどふざけてでもない限り指輪も同じはずだしな」


 俺と雅、お互いの溝が埋まったわけではないけど、こういうところでキッパリと事実を受け入れるあたりは学者気質……なのかもしれない。


「あの……お二人はもう一つ当たりに近い遺物を持っているんですよね? もしかしてそっちの方が信用度が高かったり……」



「「…………」」



 確信をついているであろう伊佐与さんの疑問にラブコメペアが同時にそっぽを向く。

 その可能性は高いというか、十中八九そうなんだろうけど、それは聞いてやらないのが優しなのでは……と思うわけで。



「……だせ」


 しかしそんな気遣いをすることなく風香が二人に手を差し出した。その表情は「持ってんだろ、ほら跳んでみろよ」と脅すヤンキーさながらだ。


「石川さん、この後は二人と協力しないといけないわけだし、それは勘弁してやろうよ」


 すかさず漢太がフォローに入るが、風香のひと睨みに一蹴されこっちに助けを求めた。



「……えっと、風香。二人の持ってる遺物が気になるなら遺跡を出た後でも見れるわけだし、今は我慢しないか?」


 宥めるように近づきながら、風香に吉田からもらった指輪を手渡す。僕の予想した動機が合っているならこれで落ち着いてくれるといいんだが……。



「…………分かった」


 事の発端である一名を除いた全員が胸を撫で下ろした。

 風香はどうも衝動を制御するのが苦手っぽい感じだけど、伊佐与さんは、巫女の呪いを持った人は空気読めないのが当たり前なんだろうか……。



「ま、まあ一悶着はあったけど、ここからはお互いに協力するってことでいいよな?」

「そうね、私はそれでいいと思ってる。雅もいいわね」

「あ、ああ。個人的な喧嘩のせいで成績を落とすのは嫌だし、不本意ではあるけど外に出るまでは協力してやるよ」


 個人的な喧嘩ふっかけてきた奴が何言ってんだ。と言い返したとしても今生まれようとしている協力関係は消えないだろうけど、ここで静かにしているのが大人の対応というものだろう。


 そして吉田と違って漢太が俺に許可を求めなかったのも円滑な協力関係のためのはず。また何かしでかしそうな二人に話が回らないための配慮込みで。


「よし、じゃあ同盟成立だな。もう少し休んだら出発でいいか?」

「いや、俺たちは休憩ならもう十分だしそっちの三人がいいならすぐにでも行くぞ」



「……それならオレたちも大丈夫だよ。な?」


 配慮のできない雅の後ろで呆れてため息を漏らす吉田にこれから彼の制御を頑張ってもらうとして、休憩に十分な時間は取れているので感情を出さないように黙って頷く。


 指輪にゾッコンな風香は完全に聞き流しながら、ノリなのか興味がないだけなのか伊佐与さんも同じく言葉なしに同意を示した。


「そうと決まれば出発だな。先頭は俺と歩で行くからちゃんと着いて来いよ」


 僕たちの通ってきた方向に向けて雅とそれに続く吉田が歩き出す。優秀な二人に先導されることを断る理由もないので、おとなしくそれに続くのだった。



 ……そして、そこからの道程は欠伸が出そうなほどに順風満帆なものだった。


 伊佐与さんの占いの力を借りながら慎重な安全確認を行なってきた道のりで安全なことを知っているのは当然のことだが、あろうことか成績トップの二人は一つとして情報や確認をとることなく、しかも一切迷う様子もなく僕たちの来た道を遡って進んでいったのだ。


 その速さは僕たちの数倍。そりゃ遺物を真贋は抜きに四つも手に入れられるわけだよ。


 一時協定成立から一時間、占いというチート込みで数時間かけた道のりをあっさりと入り口の到達地点である長い階段の下にまで辿り着いたのであった。

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