第12話 別人格
午前一時近くになり、刑事達と精神病の教授と体格の良い助手が正人の寝ている留置場に入って行った。
助手が素早く仰向けに寝ていた正人の体をベッドに何か所もベルトで拘束した。
正人は仰向けで、目を開けてじっと天井を見ていた。
「○○正人さんですね?」と教授は話しかけた。正人は顔だけを此方に向けた。
顔は正人だが眼光の鋭さが違う人間のように思わせた。
「違う、俺は黒山○だ! 貴様ら何の用だ!」低い声で答えてきた。
「成功です!別人格が現れました。何か質問して下さい」と教授が武内に伝えた。
「私達は警察で殺人事件の捜査をしている。貴方に容疑者の疑いがあり此処に拘束した。貴方が遣ったのですね?」
「そうだ、俺が二人を殺した」
「何故ですか? 動機は?」
「何故? 理由が必要か? 父親で血の繋がりがなくても子供と性の関係があった。そんな事をするのは人間ではない畜生と同じだ! 抹殺して当然だ! あの娘は何人もの男と関係を持ち快楽だけを追っている。汚らわしい!
だから、天罰を加えた!」
「貴方のもう1人の人格の正人の為か? それとも正人から依頼されたのか?」と教授は聞いた。
「違う! 正人など知らぬ!」
「かなり動揺していますね? やはり正人と繋がっているのですね?」と教授が確認するように聞くと黒山と名乗った男は顔を天井に向け無言になった。
「武内さんこれ以上は喋らないと思います。別人格が二人を殺したことはこれで分かりました」
「では、精神鑑定で刑法上は責任能力がないとして判断されるのですね。正人は精神病院に入り、旨く立ち回れば世間に出てくるのですね? 本人は人を殺した自覚もなく、また同じ様なことを起こすと思います。義父はともかく、何の意味もなく殺されたミクさんが哀れです。何とかならないですか?」
「・・・・そうですね。せめて自分が殺したと自覚して欲しい。成功するか分らないですが、やってみましょう。ミクさんが殺害された写真はありますか?」
「白鳥、持っているか?」
「はい! あります」と白鳥は写真を教授に渡した。
教授は天井を見つめている黒山の目の前に写真を持って行き見つめさせた。もちろん表情は変わらなかった。
そして、黒山のこめかみを押えて目を塞いだ。
「いま催眠を掛けています。この男が検察から病院に送られるのは何時頃になるでしょう?」
「審議する事もないから、遅くても一週間だと思います」
「分かりました。十日後にしましょう」
教授は黒山の耳元に口を近づけた。
「これは貴方が正人の為に行ったことで、それを正人は知らないでいる。この写真は貴方の中に記憶して下さい。そして今から十日後に正人に貴方の行った事を教えてやり、この写真を正人の頭の中で開いて下さい。そうすれば正人は貴方に感謝するでしょう」と教授は暗示を掛けこめかみから手を離した。
天井を見ていた黒山は徐々に目を閉じていった。
「武内さん、成功するかどうかは分かりませんが、少しでも良心の呵責に悩んで貰えばと思っています」
「有難うございます。別人格の声や喋り方は政治家の父の黒山氏に似ているのは理由があるのですか?」
「恐らく、別人格が元の人格です。声とか性格が父に似ているが幼い頃から色々押え込まれ父親が嫌いになり他の人格を作って来た。その途中で精神に異常をきたしたがその都度改善してきた。その人格が大きくなり正人になったと思います」
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