第11話 二重人格

 この初老の人は? でも刑事ではなさそうだ。


ミクとの事を色々聞いてきた。初めて会ったのは何処か? 彼女の浮気、義父との事、美鈴さんとか同僚の事を聞いてきた。


そして、私の生い立ち、それから黒山○を知っているか? と聞かれたがその名前は過去に聞いた事があったが分からなかった。


今更色々聞いてどうなるのか? 土曜日の午前中で尋問は終わり、次は日曜日の午前一時からと言われた。


何でそんな時間か分らなかったが、今まで碌に寝ていないのでその時間まで寝よう。


一人用の留置所に戻された。私は無実だが誰も信じてくれない。


冤罪は警察による一方的な取り調べで起こる事が身を持って分かった。



 会議室で二人の刑事と精神病の教授が話し合っていた。


「先生、何か分かりましたか?」


「大方分かりました。精神病の一種です。解離性同一症、つまり二重人格です」


「二重人格って、精神病ですか?」


「精神病です。彼の心には二人の人物が存在していて、犯行時は別人格になっていた可能性があります」


「殺人を否定しているのが通常の人格ですか?」


「そうです、彼の大部分の性格は、つまり今の人格は殺人を犯していないと思い込んでいます。それに妄想癖もあります」


「妄想癖とは?」


「ミクさんと交際していている、肉体関係もある、毎週火曜日にお酒とツマミを持ってミクさんが泊りに来ていると話していたのは全部妄想です」


「えっ、ではミクさんは見ず知らずの男に妄想で殺された事になりますが? そして、何時からその妄想は始まったのか分かりますか?」


「知らない男に襲われて訳が分からなく死んでいった、哀れですね。ミクさんとの妄想は三か月前に主任監督に連れられてレストランに行った時からだと思います。そこでミクさんに一目惚れして妄想が始まったようです。妄想癖は子供の頃からだと思います」


「美鈴とか信二を友人と思っていたのもそうですか?」


「レストランでミクさんと親しそうに話をしている美鈴さんとか、たまに来て美鈴さんと親しげに話しをしている信二さんを見て友達として妄想した」


その時ドアより婦警が入って来て録音テープを白鳥に渡した。


それは正人の部屋にあって、ミクの家に仕掛けられていた盗聴の録音テープだった。


家がリフォームした時から盗聴されていた。


そこにはミクに義父が関係を強要しミクが拒否する会話、義父が今までして来た事を非難するミクの会話や、母親が義父とミクに生命保険を掛けた時の保険会社との電話での会話、義父が朝五時半に犬の散歩に行く事など情報だった。


そのテープを聞き終わった武内が「ミクさんの家に盗聴器を仕掛けたのは正人だった。ミクさんと義父の関係は美鈴さんからではなく盗聴器からの情報だったのですね?」と教授に聞いた。


「そうです。真面目な性格で嫌な事や不味い事は蓋をして忘れる。つまり盗聴器を仕掛けたこと、盗聴した事は記憶から消えた」


「では先生、殺人の動機は判りますか?」


「多分、義父はミクさんの体を弄んだから、ミクさんは二回浮気をしたからと考えられるが、正人の人格は殺人を認識していないと思います」


「ミクさんの二回の浮気は美鈴と信二からの情報だと本人は言っていますが、妄想ですか? 先生」


「妄想です。一回目はミクさんと男が親しそうにレストランで会話をしている処を見ていた。二回目は車に乗った処を見て浮気をしたと妄想した」


「もう1つの人格は何時現れるのですか?」


「多分、一週間に一度で数時間だと思います。それは犯行時間と同じで日曜日の午前一時~七時だと思います」


「その時は別人格になって二人を殺害したのですね」


「そうです。日曜日を選んだのは彼の真面目な性格からでしょう。日曜日の午前一時~七時だと仕事に影響ないからだと思います」


「二つの人格は繋がっているのですか?」


「正人の人格から別人格に情報を送っている。つまり義父への嫌悪感、ミクさんの浮気での裏切り、その情報つまり妄想を受け別人格が怒りを膨らまして行き実行した。その別人格に会おうと思います」


「それで取り調べを日曜日の午前一時からにしたのですね?」


「そうです、出てくれば良いのですが? それでお願いがありますが、寝ている状態で拘束できれば可能性が高いのですが?」


「といいますと?」


「留置場で寝ている時、ベッドに拘束できれば良いのですが?」


「それは規則違反になりますが、上部に許可を取る時間もないし、明日の9時には検察に送られてしまう。良いでしょう。やりましょう」

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