第8話 刑事が来た
ミクが殺されてから十日以上になる。
いぜんと警察が尋ねてこない、何故だ? 美鈴さんと信二さんが私の事を警察に隠しているからなのか? と考えていた時に呼び鈴がなり、玄関のドアを開けると二人の男が立っていた。
初老と若い男だった。
「○○正人さんですか? ○○署の者なのですが」と若い刑事が証明書を見せながら聞いてきた。
「はい、そうです」とやっと来たかと思い返事した。
「実は先日殺されたミクさんの事で聞きたい事があるのですが、家の中に入れて貰えますか?」
「はい、どうぞ」と食堂の椅子に案内した。
座ると初老の刑事が話し始めた。
「○○未来さんとはどのような関係ですか?」
「はい、恋人でした」
「えっ? ミクさんのお母さんは知らないと? それにミクさんの友人の美鈴さんも信二さんも貴方が恋人とは話していなかったですが?」
「まだ付き合いも浅く、お母さんにも会っていません。美鈴さんも信二さんも仲が良くミクの浮気の事で良く相談していました。そんなことで黙っていてくれたと
思います」
「失礼ですが、ミクさんと体の関係はありましたか? それは何時頃からですか? で何時会っていたのですか?」
「体の関係はありました。2カ月程前からです。毎週火曜日の仕事の帰りにミクがこのアパートに来ました。そして、泊って次の日に帰る事を何回か繰り
返していました」
「ミクさんと義父さんの話は聞いていましたか?」
「聞きました。それでミクが浮気症になったと美鈴さんより聞きました」
「それを聞いて嫌な思いはしませんでしたか?」
「最初は嫌でしたが、それが原因でミクが浮気症になったと思うとミクが可哀そうになりました」
「お仕事は?」
「○○建設で現場監督の助手をしています」
「信二さんと同じ会社ですね。何年位勤めているのですか?」
「長いです、七年程になります。で犯人は分かりましたか?」
「いえ、まだ検討が付きません」
「その時のアリバイはありますか?」
「その時間は何時も寝ています」
「証明できる人はいますか?」
「いません」と答えると、また来ると告げて刑事達は帰った。
「彼の印象どう思った?」武内が白鳥に聞いた。
「真面目そうで、見た目は純朴で高校生と言っても可笑しくない風貌です。嘘を言っているようには思えませんが?」
「私もそう思う、長く犯人の事情聴取をして来たが、顔の表情や話し方で嘘を付いているようには見えない」
「でも、美鈴と信二が正人の事を黙っていたのは何故ですか?」
「分からないから、明日又聞き込みに行こう」
「はい、分かりました」
次の日に刑事達はレストランに行き美鈴に写真を見せた。
「○○正人と言う人ですが知っていますか?」
「いえ、そんな名前は知りません」と写真を見ながら答えていたが、写真が焼香をしている姿で顔がはっきりと分からなかった。
「この写真じゃ分かりません」
「そうですね、また違う写真を持ってくるのでお願いします」
「この男がミクさんの恋人で、美鈴さんと信二さんの事を友達と言って
いるのですが?」
「ミクの新しい彼氏かもしれないが? 私は知らないし、友達でもない。ただミクは不思議な子で、ミクの友達は私達にも友達だ! なんて言いそうで、それを真ともに受けているのではないですか?」
どちらの言うことが本当か刑事達は分からなくなってきた。
次に信二がいる現場事務所に向かった。
「美鈴の話だと、正人がミクに騙されて美鈴達を友達だと勘違いした? ちょっと無理があると思わないか?」
「正人は純粋で誰にでも騙され易いように見えます」と白鳥は答えた。
信二の会社に行くと応接室に通された。
今日は信二の上司の現場監督が一緒に座った。
「○○正人と言う人知っています? 確かここの社員だと言っていましたが?」
「知りません」と信二が言った後に監督が「○○正人? あっ、主任監督の渡辺さん専属の施工図描きです」
「同じ会社なのに信二さんは知らなかったのですか?」と刑事は不審に思い聞いたが、「実は会社の殆どの人は彼を知らない」と現場監督は話を続けた。
「ある人に頼まれ会社で雇いました。発達障害とか自閉症とかの精神病だそうです。図面とか工程表とか数字を扱う作業が得意で製図室に籠っていました。たまに現場に行っていましたが、本社には顔は見せませんでした。だから会社で知らない人は多いと思います」
「で彼の病気は良くなったのですか?」
「はい、七年間で大分良くなったようです。今は皆と変わりません」
「信二さん、彼はミクさんと恋人関係にあると言っていますが知っていましたか?」
「いえ、知りません。ミクは隠さない性格で新しい彼氏が出来たら、何時も話してくれるのですが? 可笑しいですね?」
「それと彼は信二さんと美鈴さんを友達だと言っていましたが?」
「私は知らないし、友達ではありません」
「正人君は前に思い込みで勘違いする事が多くありました」と監督は話した。
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