第5話 ミクの死

 日曜日、何時ものように朝九時頃まで寝ていた。

今日は起きるのもだるく大変だった。朝食の支度が終わりカップスープを飲もうとした時、テレビが殺人事件のニュースを放送し始めた。


(○○市で殺人事件がありました。現場は○○川の土手に造られた散歩道で若い女性が体中を刃物で何か所も刺され亡くなっているのをジョギング中の男性が発見しました。被害者は○○市に住む○○未来さん21歳で犬の散歩中に襲われたと思われます。未来さんは毎週日曜日の朝5時30分~6時まで犬の散歩をしていました。前回同じ場所で襲われ死亡した○○静雄さんは被害者の父親でした。警察は無差別殺人で今まで捜査してきたが怨恨に切り替えで捜査を続行する、また前回の事件で無差別殺人と断定していたので現場の警戒は前日の土曜日に終わり直後に犯行が行われたことは残念だと話していました)


思わずカップが手から落ち、床にゴトッと音を出して転がった、カップが回転しながらスープを撒き散らしているのがスローモーションのように見えた。


瞬間時間が止まった・・・・・・・・ミクに会いたい! 会いに行かなくちゃ! おろおろしながら床のコップを拾いテーブルの上に置き、服を着替えて出掛けようとしたが、待てよ、ミクの遺体は警察にある、私は何処に行こうとしているのか? 

ミクの家も知らないし、ミクの母親とも面識もなく如何すれば? 取合えず落ち着いて此処にいよう。


床にこぼれたスープを拭き、窓に目をやると青空が広がっていた。果しなく広がってミクと行った海の青空に繋がっているように感じた。


何故か雨の日でなく良かったなんて変な感情が湧いてきた。


窓のカウンターにシクラメンの鉢植えが置いてあった。

ミクが男の部屋で味気ないからと持ってきた。

もうじき白い花が咲くからとミクが言っていた事を思い出し、凄い喪失感が襲って来て涙がボロボロ出て来た。

もう生きる希望がない・・・・・・暫く、何も考えられずにいた。


急に誰がミクを殺したのかを考え始めた。ニュースで警察が怨恨と話していた。


ミクの廻りで私が知っている人間は4人いる。


一人目は金曜日の彼氏で私との関係を知り犯行に及んだと推理した。

でも義父さんを殺す動機は? 彼は私よりミクとの付き合いが遅いので義父さんとミクの関わりは知らないはずだ。

では義父は無差別殺人で殺され、ミクは怨恨で彼氏に殺された? 

いや、警察は使用した刃物や殺害方法が同じで同一犯人と話していた。

後考えられるのは彼氏が義父とミクの関わりを知っていた。

つまり私と同じ時期にミクと付き合っていたことになる。

この男の可能性が大きい。


二人目は信二さんで私と同じようにミクが好きだった。

私には美鈴さんに興味があるように装っていた。

私の方が先に付き合っているので彼女に近い美鈴さんと付き合った。

ミクの浮気を私に知らせたのは二人を別れさせるためだと思う。

信二さんが義父とミクの関わりを美鈴さんに聞いて私より先に知っていた。

だから義父さんも殺した。


三人目は母親でミクと義父さんの関係は大分前から気が付いていた。

ミクの話だと義父に生命保険を掛けてあり、義父さんが亡くなった時に500万程受け取っていた。

それに住宅ローンの返済を義父に切り替えた時、本人が死亡したら返済は無効になる生命保険に入ったらしい。

ミクにも生命保険を掛けていたらしいが受け取りは300万と話していた。

金額が生命保険目当てに見えない処が怪しい。


四人目は美鈴さんでかなり可能性は低いが、実は信二さんよりも私の事が好きでミクの浮気の話を私に伝えて別れさせようとした。

友達ならミクの浮気や義父さんとミクの関わりを私に教える事はしないと思う。

前にミクに彼氏を取られ恨んでいて殺した。

あとは義父を殺す動機が分からない? 推測だがミクの家に遊びに行き、あの気性で義父さんと口論になり暴行を受けたか? 関係を持ってしまったか? と考えたが推測の域は出なかった。

 

私は自分で彼ら達の行動を探ることにしたが、直に警察が自分の処にも事情を聴きに来るだろう。その時に状況を聞いて、それからにしようと決めた。


ミクの葬儀は司法解剖の影響で一週間後に実施した。


私は出席するかどうか迷ったが、ミクとの最後の別れと思い出席した。


祭壇の中央にミクの微笑んでいる写真があった。まだ葬儀が始まる前で棺の中のミクを覗くため何人か並んでいた。

前の女の人は棺を覗き思わず目頭をハンカチで押さえ「若いのに可哀そう」と呟いた。私も棺の中のミクを見た。


目立たないように薄く染めた柔らかい髪の毛、先がツンと上がっている鼻、小さい顔、確かにミクの顔だが人形のようで二度と目は開かないと思わせた。


悲しみに襲われ泣き崩れるのを必死で堪えた。


焼香の時に並んでいる親族で母親を確認した。


美鈴さんを見掛けたがお互い頭を下げ黙って挨拶をした。


金曜日の彼氏もいたが、信二さんはいなかった。


出棺を見送り帰って来たが美鈴さんは火葬場まで行ったようだ。


私も行きたがったが、骨になったミクは見たく無かったし、ミクも見られたくないだろう。

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