第25話 もう一人の勇者

 わたしは、かつて、ゆめの中で勇者ゆうしゃばれていた。

 かがみうつる自分は、金色の長いかみで、美少女で、華奢きゃしゃだった。身のたけほどある大剣たいけん背負せおい、ビキニみたいなふくて、防御ぼうぎょ力に不安をかんじる露出度ろしゅつどの高い赤いよろいまとっていた。

 日々は、大剣をるい、モンスター退治たいじれていた。

 仲間なかまは、人間の戦士せんし、エルフの魔法まほう使い、人間の僧侶そうりょだ。

 今は、もう勇者ではないけれど、今でも勇者と呼んでくれる人たちのために、このさきを生きよう。いつかまた、勇者となれる日を夢見よう。


   ◇


 そのたには、一年のほとんどをふかきりおおわれる。がけはさまれた谷底たにぞこきりおもまって、足元すら見えない。草木はえず、川はれ、川のあとには石のめられたみちだけがある。

 生き物は、ほとんどいないとされている。立ち入る人間もいない。命あるものが入れば生きては出られない、ともうわさされる。

 いつしか、『きりたに』とか『たに』とばれるようになっていた。今となってはだれも近づかない、とおくにながめるばかりの谷を題材だいざいとした、昔話の一節いっせつだ。

「やっと辿たどきました……」

 勇者は、ぐん天幕てんまくならおかの上から、ふもとに見える霧深きりふかい谷を見おろした。昼の日差しの下にあっても谷だけが薄暗うすぐらく、想像そうぞうしていたよりも、おどろおどろしい。

 フードとローブがれてあつい。とりあえず、一際ひときわ大きなサーカスのテントみたいな天幕に入る。日陰ひかげすずしい。

 中は、王国軍の兵士たちがうごきまわっている。たくさんいる。

 えらそうな人をさがす。

「あ、あのっ、すみません。勇者ゆうしゃ仲間なかまだった方たちをさがしているのですが、ご存知ぞんじないでしょうか?」

 軍服ぐんぷく勲章くんしょうをつけた、いかにもえらそうなチョビひげの男に声をかけた。

 男が勇者をにらむ。眉間みけんしわせる。

「ここは、王国軍の駐屯地ちゅうとんちである! ガキのあそび場ではない! とっとと出て行け!」

 怒鳴どなられた。

「いえ、えっと、勇者の仲間だった方たちが、ここに来てるはずなんですけど」

「出て行け! 二度と来るな! 他のガキどもにもそう言っとけ!」

 怒鳴どなられた。りつくしまもなかった。勇者はこまった。

「どうした、坊主ぼうず? 勇者にいたいのか? だったら、ゆめかなったぜ」

 青年が声をかけてきた。

 勇者は困惑こんわくした。意味いみ不明な状況じょうきょうになってしまった。道にまよったり、水たまりにころんだり、声をかけたらことごとく変な人だったり、今日は厄日やくびだろうか。

 としの近そうな、十代半じゅうだいなかばくらいの青年である。みじか金髪きんぱつ逆立さかだて、身長は勇者より高くて、体の引きしまったかんじで、ぎん色のデザイン重視じゅうし金属鎧きんぞくよろいまとう。武器ぶきは、ほそめの長剣ちょうけんを二本、こしにさげる。

 農村のうそん出身で勇者にえらばれて調子ちょうしった田舎いなか者みたいな雰囲気ふんいきがある。たような人を、かがみで見たことがある。何だかずかしくなりつつ、いや予感よかんがする。

「気づいたか、坊主ぼうず? そう! この俺様おれさまこそが、勇者だぜ!」

 青年が、親指おやゆびで自身をして、気取きどったヒーローみたいな決めポーズを決めた。

 勇者は困惑こんわくした。あたらしい勇者が選定せんていされたと、巨乳きょにゅうエルフにいてはいた。

 けれど、青年を勇者とはみとがたい。いざ目の前にすると、肯定こうていとはとお感情かんじょうきあがる。当たり前の、おいわいしてたたえる、がなぜか躊躇ためらわれる。

握手あくしゅするか? サインいるか? わったら、かえれよ」

 青年は、めっちゃ気さくな村のあんちゃんのテンションで、たのしげに話す。わるい人ではなさそうだし、勇者にえらばれたくらいだから強いのだろうとも思う。

「いえ、その、そうではなくてですね」

 勇者は、荷物にもつの入った革袋かわぶくろを地面にいた。フードとローブをいで、とした。

 大勢おおぜい視線しせんが、勇者に集中しゅうちゅうした。騒然そうぜんとなった。

 金色の長いかみで、美少女で、華奢きゃしゃだった。身のたけほどある大剣たいけん背負せおい、ビキニみたいなふくて、防御ぼうぎょ力に不安をかんじる露出度ろしゅつどの高い赤いよろいまとっていた。少女は、かつて、勇者とばれていた。

 勇者は、大勢の男たちに注目されて、きゅうずかしくなる。赤面せきめんして、うでむねへそかくす。

「あの、今の勇者さんではなくて、以前の勇者の仲間が、来てるはずなんです。知ってる方がいないか、いていただいてもいいですか?」

 チョビひげの男におねがいしてみた。

 チョビひげの男はおどろいて、恐怖きょうふふるえ、言葉をうしなっていた。

「何が、以前の勇者だ! この反逆はんぎゃく者め! 本物の勇者の俺様が、今ここでち取ってやるぜ!」

 調子ちょうしに乗った青年が、英雄譚えいゆうたん英雄えいゆうのテンションで、二本の長剣をさやから抜いた。左右の手に一本ずつって、二刀流にとうりゅうのようだ。

 勇者はこまった。トラブル回避かいひのために正体しょうたいかしたら、トラブルになった。かんがえるのは苦手にがてだ。

 仕方しかたないので、心をしずめる。背負せお大剣たいけんつかを、肩越かたごしに右手でにぎる。魔法まほう式のはずれる。

あたらしい勇者さんは、正式に勇者になってから何か月くらいですか? モンスターを何体くらい退治たいじしましたか?」

 言葉の抑揚よくよう少なく質問しつもんした。

「何だあ? 今回の黒鋼こっこう魔戦士ませんしを退治するためにえらばれたから、まだ一か月くらいだな。訓練くんれんがてらモンスター退治はしてたから、たおしたかずなら十体はくだらないぜ」

 青年が、威圧いあつするしゃべりでこたえた。律儀りちぎに答えるあたり、素直すなお善良ぜんりょうだ。

 勇者は、大剣をむねの前にかまえる。つかは両手でにぎる。

「勇者にえらばれたのなら、強いんでしょうね。でも、モンスター退治の経験けいけんあさいです。強いモンスターとたたかってみないと、強いモンスターにはてません」

「何だよそれ、ナゾナゾかよ? よく分かんねえが、俺様は強い! 俺様が勇者だ!」 青年が、二本の長剣でんだ。

 勇者は大剣をたてにして、受けとめた。ギィンッ、とあら金属音きんぞくおんった。

 青年のけんは、はやく、するどく、おもい。伊達だてに勇者をやってない。凶暴きょうぼうなモンスターをほふるための、人間ばなれした強さである。

 荒々あらあらしい連撃れんげきを大剣で受ける。甲高かんだかい金属音が鳴り、火花がる。手がしびれていたい。

「なかなかやるじゃねえか! だが、これでわりだ!」

 青年が、高くんだ。二本の長剣に落下らっかいきおいをして、体重を乗せて、たて一直線いっちょくせんりおろした。

 勇者は冷静れいせいに、大剣をたてにして受ける。ギィィンッッ、と一際ひときわ大きく金属音がひびく。一回ひとまわり大きな火花がく。

 完全に受けとめた。青年の全力は、勇者をはじばすにはいたらなかった。

 軸足じくあしを強くみ、しびれるうでに力をめ、全身でし返す。

 青年は後方へとねて、着地ちゃくちした。必殺技をなんなくふせがれてショックだったのか、かおおどろいていた。

「へ、へへっ。こいつを防ぐとは、やるじゃねえか。だ、だがまだまだ」

 強がりつつも、声は動揺どうようしている。自分より強い相手との戦闘経験せんとうけいけんがないのだろうから、仕方しかたない。

 青年が、りずに長剣をかまえた。

 勇者は、大剣を頭上ずじょうりあげた。無表情むひょうじょうに青年を見据みすえた。

 青年のかお恐怖きょうふ強張こわばる。勇者をおそれて、後退あとずさる。

 かまわず、み込む。大剣をたて一直線に振りおろす。

 青年が、長剣を交差させて大剣を受けた。完全にこしが引けて、衝撃しょうげきえきれず、その場に尻餅しりもちをついた。

「う、うあ……」

 青年はおびえていた。呆気あっけない、勇者のちだ。

 騒然そうぜんとなる。周囲の兵士たちが、どうすればいいのかと、狼狽うろたえる。

「いっ、今のはっ、足がすべっただけだ! しょしょ勝負しょうぶは、これからだぜっ!」

 青年が立ちあがった。りずに長剣をかまえた。声が裏返うらがえっていた。

 経験けいけんがなくとも、根性こんじょうはあるようだ。将来しょうらいたのしみなタイプだ。

 でも、今は話をややこしくするだけである。面倒めんどうなだけである。勇者はこまってあたまかかえる。

「勇者さーん! こっちですぅー! 勇者さんもいらしてたんですね!」

 人混ひとごみをき分けて、僧侶そうりょあらわれた。再会をよろこ笑顔えがおで、大きなむねらして、勇者に一直線にってきた。

 僧侶は勇者の仲間で、村の教会でも見かけるような国教こっきょう僧服姿そうふくすがたで、こし鎖鉄球フレイルをさげた、モンスターとたたか僧兵そうへいである。天然てんねんっぽい少女である。小柄こがらで、むねが大きくて、ピンク色のかみで、子供っぽさののこ十代半じゅうだいなかばくらいのかおで、年齢ねんれい的に勇者にちかい。

「え、ええっ?!」

 青年が動揺どうようを声に出した。かおを赤くして、長剣をさやおさめて、あわててかみととのえた。

「や、やあ、きみも、俺様おれさまのファンかな? あ、握手あくしゅするかい? な、なま、お名前をおしえてもらっても、いいかな?」

 ふくすそで手をぬぐって、僧侶に差し出す。勇者のときと態度たいど言葉遣ことばづかいもちがう。

 もうわった気がして、勇者は大剣を背負せおった。ローブとフードをて、革袋かわぶくろちあげた。

「あっ! 今話題わだいの、あたらしい勇者さんですよね、はじめまして! 私は勇者さんの仲間の僧侶です、よろしくおねがいしますぅー!」

 僧侶が、満面まんめん笑顔えがおで青年と握手あくしゅした。

「はっ、はいっ! こ、こっちこそ、よろしくおねがいするっす!」

 青年は、赤い顔をゆるませて、とてもしあわせそうだった。


   ◇


「おひさしぶりです。みんな元気そうで、良かったです」

 勇者ゆうしゃ笑顔えがお挨拶あいさつした。

 大きな天幕てんまくすみせきに、戦士せんし貧乳ひんにゅうエルフがいる。二人も勇者の仲間なかまである。

 戦士は青い短髪たんぱつの、二十歳はたちぎたくらいの若い男である。背の高いマッチョで、被覆率ひふくりつの高い青黒い金属鎧きんぞくよろい装備そうびしている。背中に大きなタワーシールドを背負せおい、こし戦斧せんぷをさげる。

 貧乳ひんにゅうエルフは、エルフ特有の長くとがった耳の、ゆかとどくほど長くやわらかい緑髪みどりがみの、つめたい印象いんしょうの美女である。しゅ色の長いローブをまとい、赤い水晶球のまった魔法杖まほうづえを手につ。人間よりも寿命じゅみょうがかなり長い種族しゅぞくで、外見的には貧乳な大人の女で、女としては背の高い、高慢こうまん御嬢様おじょうさまである。

「おう、勇者も元気そうだな。エルフのお師匠ししょうから連絡れんらくもらってるぜ」

 戦士が手をってこたえた。

「勇者一人かくまえませんなんて、無能むのうもと師匠ですこと」

 貧乳ひんにゅうエルフが、口元を羽扇はねおうぎかくして、苦々にがにがしげにはきてた。

 勇者は、二人がかこつくえに、僧侶そうりょ一緒いっしょく。あるつかれたので、木の椅子いすすわる。

 机の上には、大きなかみが広げてある。黒いせんがたくさん引かれて、ごちゃごちゃして、何がいてあるのか分からない。

きりの谷の地図だ。近くの村に提供ていきょうしてもらった古い地図だから、地形が多少たしょうは変わってるだろう、とさ」

「だと思いました」

 勇者は笑顔えがおで話を合わせた。地図とかは戦士の役割やくわりだ。勇者は実戦じっせん担当たんとうだ。

「エルフさんの師匠ししょうさんに、きりの谷に『黒鋼こっこう魔戦士ませんし』とばれるモンスターがあらわれて、あたらしい勇者がえらばれた、ときました。くわしくは、こっちでおしえてもらうように、とも言われました」

「そいつは、アタシから説明せつめいさせてもらおうかねえ」

 つくえかこ椅子いすの一つに、巨乳きょにゅうエルフがすわった。

 巨乳エルフは、貧乳ひんにゅうエルフのもと師匠ししょうで、エルフ特有とくゆうの長くとがった耳の、地面にとどくほど長くやわらかい茶色のかみの、がさつな印象いんしょうの美女である。薄緑うすみどり色の長いローブをまとい、外見的には弟子でしの貧乳エルフよりも年上の、巨乳の大人の女である。

 全員がおどろきの表情ひょうじょうで、巨乳きょにゅうエルフを見つめる。勇者と同じく賞金首しょうきんくびで、食人植物しょくぶつの森にいるはずの、ここにはいないはずの、軍の天幕てんまくにいてはいけない立場たちばエルフである。

「勇者ちゃんが心配しんぱいで、来ちゃった」

 注目の理由をさっした巨乳エルフが、ハスキーな声でわらった。

「来ちゃったじゃありませんわよ、もと師匠ししょう

 貧乳ひんにゅうエルフが歯噛はがみした。

「まあそうにらむんじゃないよ、弟子でし黒鋼こっこう魔戦士ませんしとは因縁いんねんがあってね」

「あの後、森や村は大丈夫だいじょうぶでしたか? 王国軍とは話がついたので、大丈夫だとは思ったのですが」

「おちゃどうぞぉー。 あっ、いただいたたねは、すくすくそだってますぅー」

「もしかして、先代せんだいの勇者と関係かんけいのある話か? そいつは是非ぜひともきたい」

「家のほうは、ハルちゃんに留守番るすばんたのんだから、大丈夫さね。それで、弟子は歴代れきだいの勇者について、きちんと調しらべておいたんだろうね?」

 全員が勝手かってしゃべる。巨乳きょにゅうエルフの巨乳が、身振みぶ手振てぶりに合わせてれる。

 話をられた貧乳ひんにゅうエルフが、巨乳をにらんで、忌々いまいましげに舌打したうちする。

「ワタクシが調しらべましたかぎりでは、公的な資料しりょうにおきまして、歴代の勇者は一人の例外れいがいもなく、古竜こりゅうとのたたかいで死んでいましたわ。もちろん、ワタクシたちの目の前にいます勇者もふくめまして、でしてよ」

 貧乳エルフの声は、つめたくんでいた。冷静れいせいで、教科書きょうかしょ教師きょうしみたいな平坦へいたん口調くちょうだった。

「そいつはおかしいだろ。勇者はげんに古竜を撃退げきたいして生きてる。歴代の勇者だって、全員が全員、古竜に殺されるほど弱かったわけがないぜ」

 戦士が意見した。モンスター退治たいじに身をき、勇者の強さをずっと見てきた、生粋きっすい冒険ぼうけん者の意見だ。

「ですから、先代の勇者の選定せんていかかわりまして、ともに戦いました元師匠が、ここまで出ていらっしゃったのですわよね?」

 貧乳ひんにゅうエルフが巨乳きょにゅうエルフを見る。他の視線しせんも巨乳エルフにあつまる。

 巨乳エルフが微笑びしょうして、満足まんぞくげにうなずく。巨乳がれる。

「さすがはアタシの弟子でしだねえ」

もと、弟子ですわ」

「アタシはね、昔に王国の勇者選定組織そしき所属しょぞくしていて、先代勇者の選定にかかわったんだ。その責任感せきにんかんから、仲間としてモンスター退治に協力きょうりょくすることにしたんだよ」

「初耳でしてよ」

最初さいしょは、勇者と魔法まほう使いの関係かんけいでしかなかったのさ。それがね、命けのたたかいで、おたがいに背中をあずけ合ううちに、いつのにかあつあいし合うように」

「そのお話は今は省略しょうりゃくしていただけますかしら」

 貧乳ひんにゅうエルフが巨乳きょにゅうエルフをにらむ。巨乳エルフもけじと貧乳エルフを睨み返す。

 なかの良い師弟していだなあ、と勇者は微笑びしょうする。恋愛れんあい話がけなくて、ちょっとガッカリする。

「勇者はガッカリしないでいただけまして? 僧侶も、色恋いろこい沙汰ざただけメモを取ろうとしますのはおやめあそばせ」

 貧乳ひんにゅうエルフにするど指摘してきされた。勇者はあわてて背筋せすじただした。僧侶が渋々しぶしぶとメモちょうをしまった。

「たいした話じゃあないさ。古竜を退しりぞけた少し後に、勇者は行方不明になった。生真面目きまじめな人だったからね、何か理由があるのだろう、そのうちかえってくるだろう、ってつことにしたんだよ」

 巨乳きょにゅうエルフが、さびしげに微笑びしょうする。きっと、今でも後悔こうかいのこしている。

つうちに、魔法協会で、生意気なまいきまま弟子でしった。大変だったけど、毎日がたのしくて、時間がまたた経過けいかした。もしかして勇者はあの幼馴染おさななじみと結婚けっこんしたのかな、なんて、ようやくあきらめる決心ができかけたころだった」

 唐突とうとつに、巨乳エルフの表情ひょうじょうが変わる。いかりにらし、つくえつめを立て、全身をふるわせ、般若はんにゃのごとき形相ぎょうそう虚空こくうにらむ。

「アタシは、偶然ぐうぜんのろいの武具ぶぐかんする人体実験じっけんのデータを見つけた。当時の関係かんけい者をさがして、めて、実験体がかつての勇者だったとつきとめた。だから、そいつをきにして、魔法協会なんぞやめてやったのさ」

 話しえて、巨乳きょにゅうエルフは一ついきをはいた。いつもの、ガサツな印象いんしょうの美女にもどっていた。

 エルフが、信じられないものを見るような目でドン引きする。僧侶はビックリして、勇者の背中にかくれている。勇者と戦士は、神妙しんみょうかおかんがむ。

 話の信憑しんぴょう性は検討けんとうするまでもない。勇者自身もたような目にった。見世物みせものでスライムを寄生きせいさせられた。

「つまり、黒鋼こっこう魔戦士ませんしが、先代の勇者だって認識にんしきで、いいんだよな?」

 戦士の質問しつもんに、巨乳きょにゅうエルフがうなずく。巨乳がれる。

「先代の勇者のれのて、さね。アタシも同行させてもらうよ。仲間として、わかれの挨拶あいさつくらいはしたいんだ」

 さびしげな微笑びしょうだった。後悔こうかいだけが、巨乳エルフの目にはあった。

 ことわる理由なんて、勇者たちにはなかった。


   ◇


 わたしは、ゆめの中で勇者ゆうしゃばれていた。

 勇者とは何か、なんて分からなくても、勇者と呼ばれてほこらしかった。

 先代せんだいの勇者も、同じ気持きもちだったのだろうか。人々をたすけて、うれしかったのだろうか。裏切うらぎられて、くやしかったのだろうか。

 自分ではない勇者の気持ちなんて、分からない。自分の気持ちだって、本当は分かっていない。自分が本当は何をしたいのか、知らない。

 それでも、わたしは、勇者と呼ばれてほこらしかった。

 わたしは、ゆめの中で勇者ゆうしゃばれていた。



/わたしはゆめなか勇者ゆうしゃばれていた 第25話 もう一人ひとり勇者ゆうしゃ END

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