第14話 『再会』
カラン…。
この鐘を大きく鳴らす事は容易いが、こんなに小さく鳴らすのは、中々のテクがいるだろう。
朱羽子は、毎日、この難題をクリアする。
「おはよう、朱羽子ちゃん。今日もよろしくね」
「…はい」
いつもにも増して、暗い朱羽子に、マスターはすぐ気付いていたが、聞いて良いものなかどうなのか、年の功でわきまえたいたマスターは、あえて何も聞かなかった。
まだ開店前で、少し薄暗く、狭い窓しかない、いつもと変わらない店。
しかし、朱羽子の心は、昨日までとは比べ物にならないほど、違っていた。
〔自分は犯罪者〕
その自覚が生まれた朱羽子は、日記さえ読まなければ、朱羽子がここまで落ち込むことは無かった。
だってそれはそうだ。
実の父親とは言え、虐待を幾度も幾度も受け、這いずり回って逃げた…あの記憶はちゃんと残ってる。
しかし、『ごめんな』が朱羽子の胸をついて離れない。
そんな事を考えながら、接客なんて出来っこしない。
しかし、来ないわけにもいかない。
この店はとても雰囲気がよく、昔の西洋の家具など、店内は木で作られていた。
溜息を繰り返す朱羽子。
そんな時、マスターには考えるところがあった。
きっと彼なら朱羽子を助けてくれる…と、直感的に思ったのだ。
マスターは午後2時を待った。
カランカランッ!!
元気な鐘が店中を駆け回った。
「こんちはー!マスター!岩滑さん!」
「おぉ。きょうはえらく大量だね。何かいい写真は写せたかい?」
「いや―今日はいまいちっす。昨日見てもらった1番気に入ってた写真、どっか忘れちゃって、毎日膨大な数撮ってたんで、フィルム探すの
滅茶苦茶苦労しましたよ!俺ってアホみたいですよね」
「あぁ…それはこれかい?」
そう言って『再会』を見せた。
「あ!ここにあったんすか!?うわー昨日徹夜したのに俺、本当のアホですね(笑)」
そう言って、マスターが写真を渡そうとした時、
「あの…」
朱羽子が突然口を挟んだ。
「え?」
この店に通い始めて数か月。
初めて挨拶以外に朱羽子が話しかけて来た。
いきなりの出来事に、鷹也の胸は一気に高鳴った。
「その写真…」
「え?」
「その『再会』の写真…くれない?」
「あ、あ、は!はい!良いっす!こんなで良ければ幾らでも!!」
そう言うと、鷹也は、何の躊躇う事なく、マスターから返されたばかりの、その写真を朱羽子に掌に乗せた。
「…ありがとう」
「あ!いや!全然!!」
そのくだりで、もう少し話せるかな?
と、鷹也は期待した。
しかし、それだけ言うと、写真をエプロンのポケットに仕舞い、朱羽子はいつも通り愛想の無い接客で他のお客さんの所へ行ってしまった。
「マスター、岩滑さん、なんで俺の写真もらってくれたんですかね?」
「さぁなぁ…。鷹也君、君コミュニティー力あるんだから、自分で聞いたらどうだい?」
「うわぁ!マスター意地悪だー!!」
「ははは」
朱羽子は、そんな2人の会話を聴こえないふりをして、仕事をこなしていた。
自分でも解らない。
『希望』
が、その写真にある気がしていた。
朱羽子は、心を閉ざしていたが、決して鈍感ではなかった。
つまり、鷹也の気持ちを知ってはいた。
鷹也が自分に好意を持っている事を。
けれど、自分は殺人犯だ。
こんな奇麗な写真を写しだす鷹也はに自分は相応しくない。
そう…思った。
只、『再会』は本当に感動した。
空は何とも言えない色彩で、雲がそっと寄り添う、朱羽子が過ごせなかった父、橙史との人生にこの写真のようなこの写真のような場面が、1度でもあったら、朱羽子の人生は違ったかもしれない。
…そう、思った。
橙史との『再会』は、奇麗すぎて、眩し過ぎて、星より激しく輝いていた。
あんな父でも、朱羽子を愛そうとしてくれていた。
それは、実行できずに終わってしまったけれど…。
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