第9話 灰色の青空

「この写真、俺、結構自分でも気に入ってるんですけど、どうですか?」

「ん?おや、中々いい写真だね。僕も好きだよ」

「本当ですか!?」

「ふんふん。君は空が好きなんだね」

「そうなんです!俺、この青い空を見てると、世界が何処まで広がってるのか、ここから見えない空はどんな色をしてるのか、凄い気になって、空ばっかり撮っちゃうんですよ!」


半年前から顔を毎日のように出し始めた鷹也は、毎日何十枚も写真をマスターに自分の写真を見てもらう為に来た。


その日も、結局朱羽子に話しかける、と言うミッションは成功せず、本当の目的の鷹也が撮った写真を、何枚かマスターに見せた。


予想外に、初っ端から自分の写真を褒めてもらえた鷹也は、嬉しくてカウンターの椅子を倒した。


「まぁまぁ、落ち着きなさい。いい写真だとは思うが、やはりと言うレベルと言う所かな。でも、そう言う自分のポリシーみたいのは、大事じゃないかな?頑張りなさい」

「はい!!」

「この空が一体君に何を教えているのか、そして、君がこれを観せた人にはこの空が何を言いたがってるのか、メッセージ性をもっと発信していくのが、これからの君が手にすべき課題じゃないのかな?」




カウンターの中で、その会話を聞いていた朱羽子は、店の狭い窓から見える空を覗いでみた。

鷹也が言った『青い空』。

朱羽子には、灰色にしか見えなかった。



そう。

父を刺して、この13年。

それから、あの日から、どんなに晴れた空を見ても、大きな雲が空を覆っても、虹が架かっていても、それらは色を失くし、朱羽子は、羽根がボロボロになって飛べなくなった鳥として見ると、その空は灰色にしか見えなかった。



(あの人⦅鷹也⦆には、この空は、どんな色に見えているんだろう…)



朱羽子は、鷹也の空を語る中で、出て来るとはどんなものなのか…、解らなかったんだ…。






カランカラン!


「やぁ。青野木君、いらっしゃい」

「こんちわ!マスター!や…岩滑さん!」

「はい」

「こっ…こんちは!!」

「いらっしゃいませ」


(空の人…)


朱羽子からすれば、鷹也が想っている気持ちがさっぱり気付かず、

(いつも来る人だ)

くらいにしか思わなかった。

それと、もう一つ、付け加えるとしたら、

(うるさい人だな…)

くらいだろうか。


言いたいことは、この時、朱羽子の中で、鷹也は、普通のお客様と格別違うお客様、とは言えない…という事。


この出逢いが、この先、どんな形で朱羽子の運命を変えるのか、そしてどんな形で朱羽子を傷つけるのか、誰も、この時は知る由もなかった。

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